立膝は、あくまで仮りの座りですから、目上の偉い人の前や、一定以上の時間、座って過ごすときには、正座や安座、もしくはそれに近い座り方となって、立膝という不安定な姿勢はとりません。
そういうところを、しっかりと考証するのが、本来の番組作りであると思います。
ましてや、ありもしない「半島からの文化輸入」など、いまも昔も、そんなものは悪事以外にはまったくないと断言させていただきたいと思います。


NHK大河ドラマの「麒麟がくる」の1シーン
女性が立膝座りをしているが、下にハカマを付けていない。
20200910 麒麟が来る立膝
画像出所=https://encount.press/archives/33600/
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歴史を学ぶことでネガティブをポジティブに
小名木善行です。
NHKの大河ドラマの『麒麟が来る』で、女性が立膝座りをすることについて、かなりの批判があるようです。
なるほど女性が立て膝をすることは、江戸時代から現代人の目を通して観たとき、どうにもお行儀が悪い。
この所作について、NHK養護派の先生らは、
「戦国時代の女性を描いた絵画などを見ると、
 その多く、もしかしたら半数に
 女性が立て膝をしている姿が描かれている。
 女性の正座は、江戸時代中期以降のもので
 それまでは女性は立膝座りや、
 立膝で食事をするのがあたりまえだった」
などと述べています。
半島では、つい最近まで女性の立膝座りは当たり前だったし、食事の際にも立て膝であることから、「日本は未開の国であり、半島が日本に文化を輸出してあげたのだ」とする歴史認識では、何が何でも日本女性が立て膝座りをすることにしたいのでしょう。
ただ、歴史を考えるときには、もうすこし深い内容があることに思いをいたさなければなりません。
まず、戦国以前の女性たちが描かれた絵画では、なるほど女性たちが立膝をしているものが多くあります。
しかし、そのどれもが肖像画としてのものではなく、ちょっとした所作、つまり、動きのある状態での立膝姿であることには、注意が必要です。
お能は、室町時代に完成された芸能ですが、「お能では女性を演じらるときにどのように座るか」について、O先生に教えていただきました。
まず、シテやワキが女性を演じるときには、舞台の上や、舞台に出るための待機のとき、座り方はすべて立膝姿です。
一方、地謡や囃子方は正座で座ります。
地謡や囃子方は、舞台の間、ずっと座位のままですから正座です。
シテやワキは、舞台で演じなければなりませんから、座りは一時的なものなので、すぐに立てるように、片膝を立てた姿で座ります。
つまり、一時的な仮の座りのときは立膝。
ずっと座りっぱなしでいるときは正座、というようになっているわけです。
ちなみに狂言では、役者は男女とも正座です。
これは狂言が、場を楽しませるためのものであり、観客に敬意を払うためとされます。
お能の場合は、むしろ観客がシテやワキといった役者さんたちに敬意を払って観劇するので、座り方も仮り座りの片膝を立てた姿になるわけです。
立てる方の膝は、お能の流派によって異なります。
左膝を立てるのが観世流、宝生流、
右膝を立てるのが喜多流、金春流、金剛流です。
女性の着物は右前合わせなので、左膝を立てたときは裾を右手で押さえられますが、右膝を立てると、どうしても裾がはだけてしまいます。
それを右手で押さえる仕草が、女らしくて色っぽい仕草になります。
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もともと日本の家屋は、板の間で、これが室町時代に書院造りといって畳の間が生まれるようになりました。
畳自体は、とても歴史の古いもので、古事記に、弟橘比売が江戸湾で入水されたとき、波の上に「菅疊八重・皮疊八重・絁疊八重、敷于波上而」という記述があります。
2世紀の初め頃の出来事ですが、この時代には畳がカーペットのような敷物として使われていたことがわかります。
平安時代になりますと、板の間に敷布団のような寝具として畳を敷く習慣が生まれました。
これが室町時代になると部屋全体に畳を敷くようになり、これがいわゆる書院造です。
そしてこの頃衣服面でも大きな変化が現れました。
もともと日本人は海洋民族なので、船上での生活が縄文以来の伝統になっています。
船は揺れますから、女性が座るときも、正座はなんとも座りが悪い(安定しない)。
このため女性であっても、あぐら座り、あるいは横座りが主流で、またしっかりと座るわけではなくて、ちょっと座る(仮り座りする)といった場合には、立膝もありだったのです。
ついでにもうひとついいますと、正座のような座り方で、かかとをお尻の下にするのではなくて、両方のかかとをお尻の左右に出す座り方も、これまた揺れる船内で、安定して座るひとつの方法であったのです。
また、板の間での生活であれば、着衣が板と擦れるため、着衣の汚れが早く、また擦り切れも早くなります。
その意味で、接地面をできるだけ少なくする座り方という意味で、正座よりも安座や横座り、立膝座りが合理的でもあったわけです。
ところが前合わせタイプの着物では、立膝やあぐら座りをすれば、お股が見えてしまいます。
そこで鎌倉期くらいまでは、女性は前合わせの着物の下または上にハカマを付けました。
ハカマを穿いていれば、あぐら座りでも大丈夫であったわけです。
この習慣は、神社の巫女さんの服装にも、いまでも伝統としてちゃんと残っています。
さて、室町時代のはじめ、第三代将軍の足利義満によって、日明貿易がはじまります。
足利義満は、この日明貿易を通じて、大陸から「高機(たかはた)」と呼ばれる、色の付いた糸を織ることを可能にする技術を導入しています。
この「高機」によって、反物に絵柄を付ける技術が日本に導入されたわけです。
それまでは着物の絵柄は、染柄と刺繍だけです。
染柄ではカラフルな色彩の表現はむつかしいし、刺繍ですと着物が重たくなります。
ところが高機(たかはた)は、布を織る段階で、色の付いた糸を織ることで着物に柄を付けます。
このため軽くて色彩豊かな着物が作れるようになりました。
その代表が京都の西陣織です。
西陣織の美しさは、誰もが認めることでしょう。
この高機導入がきっかけで、女性たちが着る着物は、鮮やかな色柄の付いた着物となりました。
そうなると、せっかくのその美しい着物の柄を、ハカマや裳で隠してしまうのはもったいない。
そこで女性の着物からハカマや裳が取り払われて、美しい着物の柄をよく見せる、現在の着物姿へと変化するわけです。
足利義満は、後に戦国時代を招いた原因をつくった国家的価値観の混乱を招いた人でもありますが、同時に文化面においては、ものすごい貢献をした将軍でもあったのです。
そしてこの時代に、先程申し上げました書院造、つまり室内全部に畳を敷き詰めるという習慣が始まります。
すると、それまでの板の間暮らしと異なり、部屋中どこでも座れるし、着物を汚すこともない。
そうなれば、より美しい座り方として、正座の習慣があたりまえになってくるし、下にハカマを穿いていませんから、座り方はむしろ正座でなければならないというように、室内の立ち振舞の文化が変化するわけです。
そして江戸中期ころには、女性の座り方は完全に正座のみといって良いくらいにまでになっていきました。
要するに、日本にも室町時代中頃までは女性の立膝座りは普通にあったけれど、その後、日本では衣類の柄のとても美しいファッション性の高い被服文化へと変化し、また生活空間全体に柔らかな畳が敷き詰められるようになったことで、戦国後期から江戸中期にかけて正座が主流になったのです。
これに対し、お隣の半島では、古代の暮らしのままの状態がつい最近まで続いていたため、いまだに女性の立膝座りが主流になっている、というわけです。
テレビの時代劇では、昭和50年(1975)に放送されたNHKの大河ドラマの「風と雲の虹と」(加藤剛主演、平将門)の番組で、時代考証から女性が立て膝座りをするシーンが描かれ、視聴者から大クレームがおきて、すべて正座にあらためた、というケースが有りました。
最近でも「麒麟(きりん)がくる」で女性が立て膝をしているシーンが描かれて問題になっていますが、他のことにはいい加減な時代考証をしておいて、そういうところばかり「正確に描写しています」とは片腹痛い。
女性に立て膝座りをさせるなら、着物の下か上に、ちゃんとハカマを穿かせなければ、視聴者にみっともないと思われるのは当然のことですし、時代考証的にも、それは「間違っている」と指摘されても当然です。
またもっというなら、立膝は、あくまで仮りの座りですから、目上の偉い人の前や、一定以上の時間、座って過ごすときには、正座や安座、もしくはそれに近い座り方となって、立膝という不安定な姿勢はとりません。
そういうところを、しっかりと考証するのが、本来の時代考証であり、番組作りであると思います。
ましてや、ありもしない「半島からの文化輸入」など、いまも昔も、そんなものは悪事以外にはまったくないと断言させていただきたいと思います。
お読みいただき、ありがとうございました。

歴史を学ぶことでネガティブをポジティブに
小名木善行でした。

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