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戦いではなく、どこまでも和と結びによって国を大きくし、国力を増していくことが大事だということを、古事記は神代からの日本の知恵であると、上つ巻の文字数の3分の1を割いて、これを神々の知恵であると描写しています。それはとてもありがたい、大切な教えです。


20190918 因幡の白兎
画像出所=https://webun.jp/item/7518913
(画像はクリックすると、お借りした当該画像の元ページに飛ぶようにしています。
画像は単なるイメージで本編とは関係のないものです。)

古事記の文字数は、上つ巻、中つ巻、下つ巻の三巻合わせて、約5万5,000字です。
このうち上つ巻(うわつまき)が神話の時代で、文字数は約1万9,000字です
上つ巻の構成は次のようになっています。
(一)序文
(二)創生の神々(そうせいのかみがみ)
(三)伊耶那岐命と伊耶那美命(いざなきといざなみ)
(四)天照大御神と須佐之男命(あまてらすおほみかみとすさのをのみこと)
(五)大国主命(おほくにぬしのみこと)
(六)葦原中国の平定(あしはのなかつくにのへいてい)
(七)迩々芸命(ににぎのみこと)
(八)海幸彦と山幸彦(うみさちとやまさち)
なかでも、特筆すべきが(五)の大国主神話です。
約7000字が割かれ、上巻の文字数のおよそ三分の一を占めています。
考えてみると、これは不思議な話です。
大国主は、出雲一国の神様だからです。

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20190317 MARTH


この時代の「国」がどういう概念であったのかは諸説あります。
参考になるのは『宋書倭人伝(そうじょわじんでん)』です。
そこに、西暦478年の「倭王武の上表文」が転載されています。
これは、倭王武(おそらく雄略天皇であろうといわれている)が、宋の皇帝に提出した国際文書です。
宋書というのは、古代の中国にあった宋の国の正史です。
チャイナの史書は、自国の王朝の歴史についても正邪がひっくり返っていたりしていて、怪しげなところも多いのですが、周辺国に関する事情については、客観的事実として、ここにはあまり嘘は書かれていないといわれています。
もっとも近年では、自国の正史である日本書紀をないがしろにして、周辺国の史書ばかりを正しい歴史と考えるおかしな風潮が学会にありますが、それはまた別な話。
実はこの『上表文』に次の記述があるのです。
「封国は偏遠にして、
 藩を外に作(な)す。
 昔より祖禰(そでい)
 躬(みずか)ら甲冑をめぐらし、
 山川(やまかは)を跋渉(ばっしょう)し、
 寧処(ねいしょ)に遑(いとま)あらず。
 東方五十五国を征し、
 西のかた六十六国を服し、
 渡りて海の北、九十五国を平らぐ」
古い言葉でちょっとむつかしいので、いつものようにねず式で現代語に訳すと次のようになります。
「我が国は貴国《宋》から
 遠いところにあります。
 昔から我が皇室の祖先は、
 みずからヨロイを着てあちこちを征伐し、
 東の方角に55カ国、
 西の方角には66カ国、
 そして、
 海を北に渡って95カ国を
 平定して国を統一しました」
ここにある「海を北に渡って」というのは、「朝鮮海峡を渡って」という意味です。
この文から、倭王武当時までに、倭国(わこく)は、国内で121カ国、朝鮮半島で95カ国を統一して倭国を形成したとわかります。
倭国は、日本本土から朝鮮半島にいたるまでの合計216カ国を統一したというのです。
倭王武が国を統一するまで、つまりそれ以前の神代における「国(くに)」という言葉は、いまでいうなら村落共同体を示す言葉ですが、この記述から、古代の朝鮮半島に、倭国は広大な領地を持っていたことがわかります。
日本書紀では、いま韓国のある朝鮮半島南部は倭国の直轄地であり、38度線のあたりに百済と新羅があり、いまの北朝鮮のあたりは高句麗であって、この三国とも、倭国に朝貢をしていたことが書かれています。
つまり、古代において、朝鮮半島は倭国の一部だったのです。
半島というところは、単一民族ではありません。
いまでも後三国時代にまでさかのぼるといわれる全羅道(百済系)と慶尚道(新羅系)の対立がありますが、これに加えてツングース系の北朝鮮、名前が表舞台に出てきませんが、濊族系があります。
また、古くからの倭人系の人たちもいます。
村落共同体から、国家への発展が顕著になった7世紀において、倭国では天皇を中心とする文化による国家統一、、チャイナでは外来王朝ながらも軍事力で国を治める隋や唐が形成された時代に、半島では、結果として濊族系が新羅を乗っ取り、裏切りと嘘による国家形成が行われ、以後、単なる収奪王国となっていったのは、不幸なことであったと思います。
そういう意味で、日本は極めて特殊ともいえる発展を遂げるのですが、このときに、大きな役割を果たしたのが、実は大国主神話です。
大国主神話の出雲王朝と、高天原の天孫族との間で、大規模な戦闘があったと主張される方もおいでになりますが、そのようなことが書かれたものも、それを示す証拠もありません。
実際には、本当にあったのかもしれませんが、すくなくとも、古事記に書かれていることは、大国主が、艱難辛苦の上国を統一し、その国を発展させるために、周辺諸国と血縁関係を結びながら、大いなる国を形成した様子です。
戦いではなく、どこまでも和と結びによって国を大きくし、国力を増していくことが大事だということを、古事記は神代からの日本の知恵であると、上つ巻の文字数の3分の1を割いて、これを神々の知恵であると描写しています。
それはとてもありがたい、大切な教えです。
※この記事は2016年9月の記事のリニューアルです。
お読みいただき、ありがとうございました。

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