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天照大御神に続く、ツキヨミ、スサノヲの、古事記で言う三貴神誕生の節です。
たいへん興味深い記述があります。
古事記と違い、ここに蛭児(ヒルコ)が三番目の子として登場するのです。

(画像はクリックすると、お借りした当該画像の元ページに飛ぶようにしています。
画像は単なるイメージで本編とは関係のないものです。)
| <バックナンバー> <日本書紀1-1>創生の神々(1) <日本書紀1-2>創生の神々(2) <日本書紀1-3>創生の神々(3) <日本書紀1-4>創生の神々(4) <日本書紀1-5>国生み(1) <日本書紀1-6>国生み(2) <日本書紀1-7>国生み(3)大日孁貴(おほひるめのむち)誕生 <日本書紀1-8>国生み(4)月読神からヒルコ、スサノヲの誕生 |
<原文>
次生月神。一書云「月弓尊、月夜見尊、月読尊。」其光彩亜日、可以配日而治。故、亦送之于天。次生蛭兒。雖已三歲、脚猶不立、故載之於天磐櫲樟船而順風放棄。次生素戔嗚尊。一書云「神素戔嗚尊、速素戔嗚尊。」此神、有勇悍以安忍、且常以哭泣為行。故、令国内人民多以夭折、復使青山変枯。故、其父母二神、勅素戔嗚尊「汝甚無道。不可以君臨宇宙。固當遠適之於根国矣。」遂逐之。
<読み下し文>
次に月神(つきかみ)生みませる。
一書(あるふみ)云はく
「月弓尊(つきゆみみこと)、月夜見尊(つきよみみこと)、月読尊(つきよみみこと)」
其(そ)の光(ひかり)彩(うるはし)く、日(ひる)に亜(つ)げる、
以(もち)て日に、配(なら)べては、治(しら)す可(べし)。
故(ゆへ)に亦(また)、天に送る。
次に蛭兒(ひるこ)を生みませる。
已(すで)に三歲(みとせ)に、なると雖(いへ)ども
猶(なお)脚(あし)立(た)たず。
故(ゆへ)に天磐櫲樟船(あめいはのくすのきのふね)に載(の)せて、風に順(まかせ)て放棄(うちすて)ぬ。
次に素戔嗚尊(すさのをのみこと)を生みませる。
一書云(あるふみにいはく)
「神素戔嗚尊(かむすさのをのみこと)、速素戔嗚尊(はやすさのをのみこと)」
此(こ)の神(かみ)は、勇悍(いさみたけく)して、忍(を)し安(やす)く、
且常(またつね)に泣き哭(いさち)る行い有り。
故(ゆへ)に、国内人民(くにのうちのひとくさ)の多くの夭折(わかくしてしす)を以て令(もたら)す。
復使(また)青山(あをやま)を変枯(か)らす。
故(ゆへ)に其(そ)の父母(ちちはは)の二神(にかみ)、素戔嗚尊(すさのをのみこと)に勅(ことよさ)しては、
「汝(いまし)には甚(はなは)だ道(みち)無し。
以て宇宙(あめのした)に君臨(きみのぞ)むべからず。
固當(まことまさ)に遠く根国(ねのくに)に適(い)ね」
遂(つひ)にこれを逐(やら)ふ。
<現代語訳>
(大日孁貴(おほひるめのむち)の)次に月神(つきかみ)を生みました。
一書(あるふみ)にはその名を「月弓尊(つきゆみみこと)」あるいは「月夜見尊(つきよみみこと)、月読尊(つきよみみこと)」と書かれています。
月神もまた、太陽に次いで光(ひかり)彩(うるはし)いので、太陽と並べて治(しら)せるために、天に送りました。
次に蛭兒(ひるこ)を生みました。
けれども蛭兒は、三歲(みとせ)になっても、脚(あし)が立たなかったので、天磐櫲樟船(あめいはのくすのきのふね)に載(の)せて、風に順(まかせ)てうちすて(放棄)ました。
次に素戔嗚尊(すさのをのみこと)を生みました。
一書(あるふみ)には、その名は「神素戔嗚尊(かむすさのをのみこと)、速素戔嗚尊(はやすさのをのみこと)」と書かれています。
この神は、勇悍でなのですが、忍耐力が足らず泣き哭(わめ)くことがありました。
このため国内の人民(ひとくさ)が早死してしまうことが多くあり、また青山(あをやま)を枯(か)らしてしまいました。
そこで父母(ちちはは)の二神(にかみ)は、素戔嗚尊(すさのをのみこと)に
「汝(いまし)は無道の者だから、この宇宙にあってはならない。
遠くの根国(ねのくに)が適している」と、ついにこれを追い払いました。
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<解説>
天照大御神に続く、ツキヨミ、スサノヲの、古事記で言う三貴神誕生の節です。
古事記では「月読命(つきよみのみこと)」と書きますが、日本書紀は「月神」と書き、太陽と月の関係であることを明らかにしています。
その続きが衝撃的です。
古事記では、三番目の子はスサノヲとしているのですが、日本書紀はその前に三番目の子として蛭兒(ひるこ)が生まれたと書いています。
古事記ではヒルコは、イザナキとイザナミの最初の子です。
けれども日本書紀では、大八洲國(おおやしまのくに)及び山川草木を生んだあとに、「天下(あめのした)の主(きみ)たる者を生まざらん」と申し合わせて、高貴な神々を生んでいるわけです。
そして三番目に生まれた子を「ヒルコ」と書いています。
そのヒルコは、「天磐櫲樟船(あめいはのくすのきのふね)に載(の)せて、風に順(まかせ)てうちすて(放棄)ました」とあります。
櫲樟(よしょう)というのは「クスノキ」のことで、それが「磐」だと書いています。
「磐」という字は、般と石から成り立ちますが、般の字は、手漕ぎ用の櫂(かい、オールのこと)が着いた船を意味します。それが大きな石のように丈夫だから訓読みが「いわお」となるのですが、同時にこの字は、櫂が付いていて、しかも丈夫な船ということから「大きな船」のことをも意味します。
つまり「磐櫲樟船」は、クスノキで造られた櫂付きの巨大な船を意味しているわけです。
しかも「風に順(まかせ)てうちすて(放棄)た(順風放棄)」ですから、この船には帆もあります。
要するに櫂付きの大型帆船であるわけです。
櫂付きの大型帆船で、すぐに浮かぶのはガレー船です。
ガレー船といえば、古代ギリシアのアテネがペルシア海軍を破ったサラミスの海戦で用いられた船や、古代ローマが地中海で用いた船が有名ですが、この船は特徴として、地中海のように波の静かな海でなければ、機能しない船でもあります。
なぜかというと、波の荒い外洋では、櫂のところから浸水してしまうからです。
このため大航海時代になると、カラベル船と呼ばれる櫂のない帆船が用いられるようなりました。
要するに「磐櫲樟船」がガレー船のような形式の船なら、それは地中海のような広大な内海(うちうみ)で航海をしていたことになるのです。

四番目の子が素戔嗚尊(すさのをのみこと)です。
この神について日本書紀は、
・勇悍だけれど忍耐力が足らず泣き哭(わめ)く。
・人民(ひとくさ)を殺してしまうことがある。
・青山(あをやま)を枯(か)らす。
という特徴があると記しています。
そして「遠くの根国(ねのくに)」に追い払ったと書いています。
さてここからは仮説です。
日本書紀が書かれた当時は、遠い遠い祖代の記憶がまだ残っていた時代であったのかもしれません。
日本は、三万年前には新石器時代を迎えていて、以後、住民の居住が連続して歴史を紡いできた歴史を持ちます。
大陸では王朝が交替する都度、住民のほとんどが虐殺され、過去の歴史が抹殺されてきましたが、日本ではそのようなことがなく、歴史が継続してきているわけです。
下の図は日本海洋データセンターの海底地形の三次元表示図ですが、この図のピンク色のところは、2万年前までは陸地だったところです。

https://www.jodc.go.jp/jodcweb/JDOSS/infoJEGG_j.html
図によって、琉球諸島のすぐ北側まで大陸がせりだし、そのまま日本列島と地続きになっていた様子を見て取ることができます。
この琉球諸島と大陸に挟まれた黄色いエリアが「曙海(あけぼのかい)」です。
この時代、北のベーリング海峡では、ユーラシア大陸と北米大陸が陸続きになっていますから、北極海の寒流は南下しません。
一方、赤道から北上する暖流は、日本列島を洗う形で北上していましたから、氷河期とはいえ、曙海のあたりは温暖で人々が住むにはたいへんに適したところとなっていたことでしょう。
そしてこの曙海は、いわゆる内海(うちうみ)ですから、波もおだやかであったことでしょう。
まさにヨーロッパの地中海と同じ、波の静かな海です。
つまりここでの海上交通には、まさに「櫂付きの大型帆船」が適していることになります。
ところが地球気温が温暖化に向かい、海面が上昇してくると人々はそれまで住んでいた土地は海中に没してしまいます。
人々はそれまで住んでいた土地を放棄しなければなりません。
まさに「風に順(まかせ)てうちすて(放棄)」することになるのです。
そして曙海の形は、不思議なことに、まさに「山蛭(やまひる)」そのものの形をしています。
すると、続くスサノヲの描写も、スサノヲが海神であり、しかも「泣き哭(わめ)き、人民(ひとくさ)が早死してしまい、青山(あをやま)を枯(か)らす」しているという描写も、まさに海面が上昇し、それまで内海だった曙海が外洋と直接つながるようになって波が荒くなり、人々の命や緑の山々を奪ったという描写にも見えてきます。
そうすると、日本書紀が書いているイザナキ、イザナミの、このあたりの描写は、もしかすると3万年前から1万年前くらいまでの遠い昔の出来事を、一括して短い言葉で述べているといえるのかもしれません。
このあたり、実に興味深いところです。
さて日本書紀は、今回ご紹介したこの本文に続けて、いくつかの別伝を伝えています。
果たしてそこには何が書かれているでしょうか。
続きはまた次回。
お読みいただき、ありがとうございました。

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