
戦前までは学校の教科書で紹介され、大楠公と並び称される忠臣として、誰もが知る日本の常識でありながら、戦後はまったくその存在自体をかき消されてしまった人に、児島高徳(こじまたかのり)がいます。
児島高徳は、鎌倉時代後期にあたる、正和元(1312)年、備前の国(いまの岡山県東南部)の児島郡の人です。
元弘二(1332)年3月、児島高徳は隠岐島に流罪となって護送される後醍醐天皇をなんとかして奪回しようと、わずか二百の手勢で護送団を追います。
けれど護送団がどうしても見つからない。
そこで児島高徳は、せめて志だけでも伝えようと、杉坂峠の天皇の宿所の庭の桜樹の幹を削って、十字の詩を書きました。
それが、
~~~~~
天莫空勾践
時非無范蠡
~~~~~
という漢詩です。
意味は、「天が古代中国の越王・勾践を見捨てなかったように、このたびのことでも范蠡の如き忠臣が現れて、必ずや帝をお助けする事でしょう」というもので、この話は忠臣児島高徳の故事として、戦前は学校の教科書でも紹介され、日本人なら誰もが知る「日本の常識」となっていました。
文部省唱歌もあります。
尋常小学唱歌第六学年用に掲載されているもので、
♪ 船坂山や杉坂と、
御あと慕ひて院の庄
微衷をいかで聞えんと、
桜の幹に十字の詩
天勾践を空しうする莫れ。
時范蠡無きにしも非ず
とっても難しい漢字がいっぱい使われている歌詞ですが、こうした歌が唱歌として歌われ、小学生でさえ、その意味をちゃんとわかっていたというのは、実にすごいことだと思います。
現代のゆとり教育とはずいぶん違う。
大切なことは、単に漢字の意味がわかるということではなしに、こうした歌を通じて、「忠」という概念を幼いころからきちんと学び、自分のものにしていた、ということではないかと思います。
ちなみに「学」という漢字は、もとの字が「學」です。
部首は「子」で、上に乗っかっている難しい部分は、建物を表します。
建物の中に「×」が二つ並んでいますが、これは両手で引き上げるさまを表している。
つまり「學」という漢字は、子供を複数の大人で、建物の中で引き上げる=向上させる、という意味の漢字です。
戦後教育はなにやら知識が目的化していますが、たいせつなことは子供達が将来大人になって社会や家庭を担うようになったときに、立派に生きる精神性を養うことなのではないかと思う。
さて、せっかく児島高徳の詩が出て来たので、越王勾践のことにも触れておこうと思います。
「勾践」は、Chinaの古代、春秋戦国時代の「越」の王です。
「勾践」は、隣りある強国の呉の王「闔閭(こうりょ)」を破ります。
呉王「闔閭」の子の「夫差(ふさ)」は、お家再興を近い、毎日寝苦しい薪(たきぎ)の上に寝て、悔しさを忘れないようにした。
これが「臥薪嘗胆(がしんしょうたん)」の逸話の「臥薪」です。
そして再起した呉王「夫差」は、見事、越王「勾践」を「会稽山(かいけいざん)」で打ち破る。
敗れた「勾践」は愛する妻を「夫差」に妾(めかけ)として差し出すという屈辱を受けます。
このときの悔しさを忘れないようにと、「勾践」は野良仕事の毎日の中で、いつも苦い「胆」をそばにおいて、これを噛み、「会稽山の恥を決して忘れない」と誓い続けた。
そして努力を重ね、ついには夫差を滅ぼした。
これが「臥薪嘗胆」の「嘗胆(しょうたん)」の逸話です。
敗戦の屈辱と、何もかも失った越王「勾践」に、富めるときも、すべてを失って貧しいときも、常に変らぬ忠誠を誓い、「勾践」を守り続け、ついに決起したときには、見事「夫差」を滅ぼしたのが忠臣「范蠡(はんれい)」で、この逸話が、「会稽(かいけい)の恥」をすすぐ、という忠臣物語となっています。
つまり児島高徳は、自分を「范蠡」になぞらえて、自分の気持ちを後醍醐天皇に伝えようとして、上の漢詩を書いたのですが、これを見つけた後醍醐天皇の護送団は、誰ひとり、詩の意味がわからなかったのだそうです。
このあたり、非常におもしろいと思うのですが、このとき流された後醍醐天皇は、後に再起し、鎌倉幕府を滅ぼし天皇親政を実現しています。
まさに明治維新ならぬ、鎌倉維新が行われたのが、この後醍醐天皇の「建武の中興」なのですが、このとき後醍醐天皇を支えた忠臣たちである児島高徳や、楠正成たちなどは、誰もが非常に教養が高い。
そしてその教養の中核をなしているのが、単なる詰め込み知識などではなくて、生き方や精神性に結びつく忠孝や徳義の道なのです。
いま日本は、建国以来の危機にあると言われています。
その日本を守り、救うのは、やはり我が国の伝統の中にある、忠孝の道、徳義の道、人の道といった、古くて新しい日本の学問なのではないかと思います。
ところで、この児島高徳について、別な角度から紹介している素晴らしく美しいブログがあります。
日本画家・高橋天山さんのブログなのですが、是非一度、ご覧になっていただくと良いと思います。
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http://tenzan.iza.ne.jp/blog/entry/2555095/
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