
実は、日心会のメルマガの配信は、ボクのパソコンから行っているのですが、既にご案内の通り、6月21日にパソコンがクラッシュし、データの一部とインストールしていたメール送信ソフトの両方まで壊れてしまいました。
配信先データの復旧には、今月いっぱいかかる見通しです。
こちらは、なんとか復旧させれると思います。
またメール配信ソフトは、新たに別な古いパソコンにインストールしたのですが、バージョンが古いせいかいまいち調子が悪く、そのため今週月曜日から送信を再開したのですが、いまのところ3分の1くらいの宛先への送信で、残りがエラーとなっています。
こちらは2~3日で復旧しようとしていますが、せっかくメルマガ会員になっていただきながら、メルマガの配信がされない方がいまだ多数出てしまっています。
まことに申し訳ないのですが、なんとか復旧させますので、いまばらくお時間をくださるよう、お願い申し上げます。
特に、今週月曜日に配信する予定だったメルマガは、非常に内容のよいものです。
配信されなかった方のために、こちらのブログに、記事を転載させていただきたいと思います。
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題名:おじいちゃんの大切な一日
本文:
エリカちゃんは、小学5年生の女の子です。
ひとりっ子です。
両親のもとですくすく育ちましたが、お母さんからお説教されることはしょっちゅうでした。
でもお父さんから叱られることは、あまりありませんでした。
ところが叱られたのです。
エリカちゃんも友達も、ゲーム機が大好きです。
通信が出来て新しいソフトも沢山あるゲーム機が登場します。
友達が持ちます。
どうしても欲しくなります。
お母さんからは、「クリスマスにサンタさんにお願いしなさい」と言われていました。
しかし待ちきれなくて、ウソをついてしまいました。
「今持っているゲーム機、壊れちゃった。」
もちろん、すぐばれてしまいます。
お母さんからはうんと叱られました。
夜、会社から帰ったお父さんに、「エリカ、ここに座りなさい」と言われました。
しかしお父さんは、意外なことを言いました。
「ウソをついたのも悪いけど、もっとよくないことがあるんだぞ。
ウソがばれなかったら、古いゲーム機はどうするつもりだったんだ?」
そして、謎の命令を下します。
「エリカ、あしたおじいちゃんとおばあちゃんのウチに泊まりに行ってこいよ、どうせ夏休みだし。」
翌日、一人でドキドキして電車に乗ります。
田舎の駅には、おばあちゃんが出迎えに来ていました。
その夜の晩ご飯は、おばあちゃんと二人で食べました。
おじいちゃんは、仕事でまだ工場にいるのです。
晩ご飯のあと、おばあちゃんは洗濯物にアイロンをあてています。
見るとポケットが沢山ついたベージュ色のズボンでした。
オイルのしみがあちこちついています。
年季が入ったズボンです。
おばあちゃんは、「ほら見てご覧、ここ」と指さします。右足の付け根の一寸上の方です。そこだけ生地が傷んでほつれかけています。
おばあちゃんは、誇らしげに言いました。
「長年仕事をしているとこうなるの。おじいちゃんの勲章みたいなものよ。キサゲの柄の端っこをここに当てて、ぐっと前に押すのよ。それを毎日ずーとやってきた。」
おじいちゃんは、工場のキサゲ工なのでした。
翌朝、7時前に起こされました。
「今日はおじいちゃんと一緒に、エリカちゃんも工場に行くのよ。」
バスに乗って、おじいちゃんと一緒に工場へ向かいます。
そしてびっくりします。
バスに乗ってくる同じ工場の人が、皆おじいちゃんに挨拶するのです。
「イシさん、おはようございます。」
「イシさん、夕べはどうも。」
おじいちゃんの姓は、「石川」だから、「イシさん」なのです。
若いお兄さんが私を見て言いました。
「イシさん、・・・この子、お孫さんですか?」
「最後だから連れてきた。}
「イシさん、長年お世話になりました。オレ、仕事を一から教えてもらって・・・、まだ何も恩返しできなくて・・・。」
そー、今日はおじいちゃんの60歳の誕生日、定年の日なのでした。
工場では、小さなヘルメットを渡されました。おじいちゃんの横には、でぷっちょのおじさんがいて、ニコニコしています。工場長さんでした。今日、見学することを特別に許してくれて、おまけに今日も最後の仕事があるおじいちゃんに代わって、工場の案内までしてくれるらしい。
おじいちゃんは申し訳なさそうに「悪いなぁ、忙しいのに」と言ったのに、工場長さんはにこやかに笑って、首を横に振ります。
「イシさんには、難しい仕事を数え切れないほどやってもらったんですから、それ位、喜んでやらせてもらいますよ。」
フシギでした。
工場長さんは、一番偉いはずなのに、おじいちゃんに敬語を使っている、なんか心から尊敬している感じです。
夕べはおじいちゃんの送別会だったと、工場長さんは教えてくれました。
工場で一緒に働いてきた仲間が、沢山出席して賑やかな会でした。
工場は、工作機械を作る工場でした。
工作機械とは、機械を作る機械のことで、マザーマシンと言われます。
高い精度が求められます。
その精度を最終的にキサゲという人手による作業で実現しているのです。
おじいちゃんは、そのキサゲ班の班長でした。
おじいちゃんから、一から仕事を教え込まれた班の若手、それがバスの中で会った若い人でした。
3年やってやっと半人前です。
夕べは、最後に泣いたそうです。
工場の中は、あちこちで機械が音を立てています。
クレーンが金属の塊を運んでいます。
ロボットが動いています。
工場長さんは、いろいろ自慢します。
「この床、地震でもびくともしないよ。」
「工場の中、涼しいだろ?1年間23度、湿度も一定だよ。」
「それは機械のためだよ。機械は温度で伸び縮み摺るんだよ。
みんな生きているんだ。」
そして胸のポケットから、携帯電話を取り出します。
「これ、ウチの工場で作った機械で作っているんだよ。
こんなに小さいのに、部品が沢山使われている。
その部品の寸法が、0.1ミリでもづれていたら、正しく組み立てられない。
何万個作った中のどの1個ををとっても、ぴったりにならないといけないんだ。」
工場さんは、さっきの言葉を繰り返します。
「生き物と同じなんだよ、鉄や機械は。人が愛情を込めて付き合っていけば、命を持つんだ。」
エリカちゃんは、胸がキュンとなりました。
そうか、お父さんの言っていたことは、このことだったんだ。
そのあと、おじいちゃんのキサゲの職場に行きました。
太っちょのおじさんがいる、茶髪のイケメンぽいお兄さんがいる、機械の底に潜り込んで仕事をしているお兄さんもいる。
歩いていると、声をかけられます。
「イケさんのお孫さんだって?」
「何年生?」
「目がよく似ているね」
「イシさんも長生きしなくっちゃ」
おじいちゃんは、一生懸命キサゲの仕事をしていました。
工場長さんは、説明をしてくれます。
「キサゲって、鉄をピカピカに平らにするんだよ。
だけど、髪の毛の10分の1位のデコボコを残すんだ。
そうすると、ボコの所に油が流れて、機械の動きがスムースになるんだよ。」
おじいちゃんは、キサゲで削った表面を、そっと指でなでています。
「イシさんくらいの大ベテランになると、指で触っただけで、デコボコが分かるんだよ。」
お昼休みになりました。
皆が食堂に集まりました。
おじいちゃんのお別れ式です。
皆んなで力を合わせて機械を作っているから、皆が仲間なのです。
おじいちゃんは、拍手に迎えられて入って来ました。
照れくさそうです。
いろんな人から花束をもらいます。
「えー、それで・・、ここでサプライズがあります。」
司会の工場長さんは言いました。
「今から25年前、当時5歳だったイシさんの息子さんが、“父の日作文コンクール”で最優秀賞を取りました。
本日のために、息子さんから、この作文を送ってもらいました。
イシさんの定年に当たって、この作文をもう一度、イシさんに捧げたいと思います。」
作文を読み終わると、食堂は割れるような拍手に包まれました。
エリカちゃんも一生懸命、拍手しました。
「子供時代のお父さん、やるじゃん・・・。」
最後におじいちゃんの挨拶です。
「・・・ワシは口べただから、・・・挨拶なんて・・・、とにかくその・・・、みんな元気で頑張ってくれ。」
「ものを作るっていうのは、・・・アレだ、うん、・・・素晴らしいことだと思うんだ、ほんとに。」
「最後に、今日、孫に仕事をしているところを見せてやれて・・・、よかった・・・。」
拍手、拍手、拍手でした。
もうエリカちゃんは、ものを粗末に扱うことはしないでしょう。
部屋はきちんと整理するでしょう。
お友達には、仲良く親切にするでしょう・・・。
ここに我が国におけるものづくりの原風景があります。
工場の皆が仲間であり家族です。
先輩達は若者達を厳しくしかし暖かく鍛えます。
仕事に誇りを持ち、仕事に真っ直ぐに取り組み、若者達を薫陶します。
若者達は、自分を鍛えてくれた先輩達に感謝します。
工場長もそのような人達を高く評価し大切にします。
こうして我が国のものづくりの現場では、職人という人達が大切に扱われ、技術・技能が伝承されてきました。
この大震災で、東北地方のものづくりの工場が、大きな打撃を受けました。
そこで改めて分かったことは、世界中の主立った工場に、その影響が及んだことです。
日本からの各種の部品の供給が途絶えて、世界各国の工場も休止に追い込まれました。
我が国のものづくり力は、世界のトップなのです。
是非東北地方の被災工場の早期の復興と今後の発展を祈りたいと思います。
ただ1つの暗雲は電力の逼迫です。
それに手を貸しいてるのが、我が国の首相なのです。
(資料)重松清著、はまのゆか絵「おじいちゃんの大切な一日」(幻冬舎)
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