
最近はあまり見かけなくなったけれど、筆者などが小学生の頃は、近所や同級生に、結構「伝書鳩(でんしょばと)」を飼っている人がたくさんいました。
伝書鳩というのは、は、カワラバト(ドバト)などのハトを飼い馴らして、ハトの帰巣本能を利用して、遠隔地からハトにメッセージや小さな荷物などを持たせて届けさせるというものです。
伝書鳩とヒトとの関わりは非常に古く、古くは旧約聖書のノアの箱舟に、小枝を届けた鳩の記述があり、紀元前約5千年のシュメールの粘土板にも使用をうかがわせる記述、紀元前3千年のエジプトでも、漁船が漁獲量を陸に伝えるために使われていたという記録があります。
ギリシャのポリス間では、競技会(いまのオリンピック)の覇者について、鳩の足に赤いリボンを結び付けて、故郷に勝利と栄光を伝えたのだそうで、ローマ帝国の時代になると通信手段として広く普及。
さらにジンギスカンも、カエサルも、ナポレオンも、戦いの状況報告に伝書鳩を使っています。
日本でも、飛鳥時代には輸入され、江戸時代には広く普及しています。
なるほど、伝書鳩は昔は使われたものだ・・・とご理解いただけると思うのですが、実はこの伝書鳩、大東亜戦争でも、大活躍をしています。
昨日の記事で、パラオ・アンガウル島の戦いで、艦砲射撃で島内の通信がズタズタに切断された中、残った通信手段が伝書鳩しかなかったということを書きました。
いま、事業仕訳で日本における「塩」の備蓄が民主党の「仕訳人」たちに「不要」であるとレッテルを貼られていますが、筆者から見ると、
「えっ?! たった10万トン(3か月分)しか備蓄がないの?」という感じです。
何十年も洪水が発生してないから、堤防を築いたりメンテナンスしたりする必要が「ない」ことにはなりません。
万一のことに備える。それは国家としての大命題です。
脱線しましたが、なるほど世の中にはハイテクが発達しましたが、なんらかの天変地異で電力の供給がなくなったら、日本の情報通信ネットワークは、その時点で壊滅です。
早い話、まるで無防備な北陸の原子力発電所ひとつが、どこかの隣国の軍隊によって破壊もしくは占領されたら、その時点で、関西から東海地方の電力はアウト。
充電しなければならない携帯は使えないし、電話もダメ、パソコンもテレビも全部、ダメ。真夏の猛暑にエアコンもダメ、高層ビルではエレベーターも停止です。
どうすんでしょうね。
ローテクといって馬鹿にするようなことが、最後土壇場になると大きな力を発揮する。
そして平時には不要不急に見えることが、実は災害などの非常時にはたいへん重要なことになる。
そういうことを、日本人は忘れてはいけないのだと思います。
さて、伝書鳩です。
フランス革命のとき、王妃マリー・アントワネットは、投獄中に伝書鳩で外部の王党派と連絡を取り合っていました。
雪のような純白の鳩だったそうです。
マリー・アントワネットは、その鳩を「La Naige(ラ・ネージュ、雪)」と呼んで可愛がっていたとか。
日露戦争(1904~1905)では、旅順要塞のロシア軍が伝書鳩を使って外部と連絡を取りあいます。
乃木大将率いる日本軍は、これにおおいに困り、宮中に鳩退治のために「鷹」を出動させてくれ、と要請します。
ところが、鷹には鳩を襲う習性がない。
そこで宮中では、急きょハヤブサの育成をはじめますが、その訓練半ばで旅順要塞は陥落してしまった。
伝書鳩は、第一次世界大戦(1914年~1918年)でも大活躍します。
なんと20万羽以上が使われた。
この時代には、電話も電信も普及しています。
しかし情報通信の分断は、戦略上非常に重要な作戦です。
電話は電線を切断されしまったらアウトだし、電信も未だ無線技術が確実性が乏しかったのです。
だから伝令に伝書鳩は欠かせなかった。
第一次大戦後、イギリスは、「もう戦争も終わったし、事業仕訳して経費を節減しちまえ」と、軍の鳩舎を閉鎖し、2万羽の伝書鳩と四百人の専門トレーナーを解雇してしまいます。
一方、巨額の賠償費を取られることになった敗戦国ドイツは、長引く不況の中でも伝書鳩の飼育を継続し、ヒトラー率いるナチス党が政権を握って間も無くの昭和九(1934)年には、完全に法のもとで、伝書鳩を政府の保護下に置きます。
ヨーロッパにナチスドイツが台頭し、再び戦争の影が差し始めた頃、ハイテク無線が通信の主役になっていたイギリス軍部にあって、オスマン少佐という人が、伝書鳩の重要性を説き続け、2年がかりで軍内部に伝書鳩局を開設させ、飛行機には万一に備えて必ず伝書鳩を搭乗させることを義務付けます。
多くの人から「無駄なこと」「経費の無駄遣い」と、そしられる中で、いよいよ第二次世界大戦が始まる。
間も無く、スコットランドを発った一機のイギリス軍爆撃機が、ノルウェー沖で、エンジントラブルで墜落します。
この機に搭載された伝書鳩のウィンキーは、なんと墜落の衝撃に堪え、海水と油にまみれてさんざんな状態になりながらも、二月の寒風吹き荒ぶ夜空の洋上を飛び続け、翌朝、未明には基地に帰還して鳩小屋係の軍曹に発見されます。
ウィンキーが帰還したとき、救助本部では既に墜落現場の捜索が、その広過ぎる捜索範囲に、もはや断念、とされていたのですが、ウィンキーの体の状態と凡その飛行時間から遭難現場の絞り込みに成功。
救命ボートで洋上を漂っていた乗組員、全員が無事救助されています。
この一件で、ウィンキーは戦時功労賞として、軍用犬18頭、軍馬3頭、伝書鳩32羽を受賞し、伝書鳩局は一躍脚光を浴びる事になります。

イギリス軍の伝書鳩は、さらに大活躍をします。
アメリカ軍が、ドイツ軍の占領下のあるイタリアの街を爆撃しようとしたときのことです。
イギリス軍がその町に到着すると、ドイツ軍はすでに撤退したあとだった。
イギリス軍部隊が、敵不在、爆撃中止を米軍に伝えようとしたら、無線機が故障して連絡が取れません。
爆撃開始予定時刻まで、あと20分。
急遽書簡を託された伝書鳩、その名も「GIジョー」は、米軍基地までの32キロの道程を、時速100キロノ猛スピードで飛び、間一髪、出撃直前の爆撃機部隊を止める事に成功しました。
これによって命拾いしたイギリス軍兵士の数は1千人以上にのぼったそうです。
こうしてイギリス軍の伝書鳩による伝令成功率は、なんと98%。
これに対抗してドイツ軍では、フランスやベルギーから大量のハヤブサを放ってイギリス軍の伝書鳩を襲わせます。
ハヤブサは、水平飛行時の飛行速度は鳩と同じで時速100キロです。
ところが、獲物をとらえるために急降するときは、なんと時速300キロの猛スピードになる。
この速度は、鳥類最高なのだそうです。
訓練を積んだ伝書鳩でも、これには敵わない。
しかも、上空背後は、視野の広い鳩にとっても死角です。
狙われたらまず助からない。
ところが、1942年にベテラン鳩飼育者チャーリー・ブルーワーがフランスに送り出した「エクセターのメアリー」は、幾度もハヤブサの鉤爪を逃れて舞い戻ったそうです。
ある時は胸を22針も縫う大怪我を負っていたけれど、それでも回復すれば戦地に送られ、必ず戻ってきた。
最近の研究で、賢い鳩は、ハヤブサが獲物を鉤爪にかけるときに、ほんの一瞬、空中で一時停止する、そのときを見計らって、羽ばたくことを停止し、石のように急速落下することで、逃げ延びることが明らかになったそうです。
おそらく、メアリーはこの方法で、ハヤブサをふりきり、なんと第二次世界大戦を終戦まで生き残っています。
ちなみに、携帯電話の普及から、最近では、鳩の地磁気探知能力が影響を受け、1990年代後半から、日本国内でも迷子になって帰巣できない伝書鳩が激増しているのだそうです。
いまでは、国内だけで、帰巣できない鳩が年間60万羽にのぼるとか。
「平時にあって戦時を忘れず」というのは武家の心構えですが、平時にあってもあらかじめ非常時への備えをする、というのは国家の運営にとってとても大切なことです。
塩の備蓄そのものを、あたまから「不要」と鼻で笑うような人間に、たとえそれが国会議員であったとしても、たいせつな国家の予算や国政を任せることはできない。
ヒトには、誰しも間違いがあるものです。
失敗の連続が人生でもあります。
だから失敗がある、ということは、それ自体はとても良いことです。
しかし、同じ過ちを二度繰り返すのはアホです。
前回の衆院選で、「自民党にお灸を据える」、あるいは「子供手当をもらえると助かる」などと民主党に投票したみなさんは、次回以降の選挙では、絶対に、同じ「あやまち」をしないでいただきたいと思います。
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