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| 塚原卜伝は戦国時代の剣豪で、生涯負けなしと称される人物です。彼は、船中で挑んできた若い剣士に対して、戦わずして勝つ「無手勝流」で対処し、また他の決闘では武器の間合いを工夫して勝利を収めました。戦国時代の試合は命がけです。ルールや審判もありません。「勝つ」というのは、ただ強いだけで勝てるというものではありません。勝つためには、常に入念な準備が不可欠なのです。日本武道は命を懸けた実戦を前提としています。そのための鍛錬は、自然な動きとなるまで繰り返すことにあり、その上で各戦いごとに創意工夫を不可欠としていたのです。 |
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塚原卜伝は戦国時代の剣豪として知られる人です。鹿島流や香取流の剣術を学び、83年の生涯で日本全国を3度も武者修行の旅に出ました。また、戦場に37回立ち、敵と22回戦ってすべて勝利したと言われています。討ち取った大将が12人、武者が16人、斬り倒した相手が212人もいたそうです。自分が負った傷は、軽い矢傷がたったの6カ所だけだったとか。まさに大剣豪と呼ぶにふさわしい人物ですね。
ある日のこと、卜伝が琵琶湖で渡し船に乗っていると、同じ船に乗っていた若い剣士が彼を見つけて、決闘を挑んできました。卜伝は力の差を感じて断ろうとしましたが、その若い剣士は卜伝が怖がっていると思い込み、さらに挑発してきます。
「このままでは周囲に迷惑がかかる」と考えた卜伝は、「船を降りて戦おう」と提案し、二人で小舟に乗り換えました。小舟が近くの小島に着くと、若い剣士は水の浅いところで舟を飛び降り、島に向かって急いで歩き始めます。その様子を見た卜伝は、何もなかったかのように舟を漕いでその場を離れ、若い剣士を島に置き去りにしました。剣士が怒って罵倒すると、卜伝は「戦わずして勝つ、これが『無手勝流（むてがつりゅう）』だ」と大笑いしながら去っていきました。
また、こんな話もあります。卜伝がある武芸者・梶原長門（かじわらながと）と決闘するとき、相手が刃渡り75センチの小薙刀（こなぎなた）を使うと知ると、自分の武器を85センチの太刀に変更しました。これで間合いの差で優位に立ち、一撃で相手を倒したと伝えられています。
戦国時代の「試合」は、現代の試合と違い、ルールや審判もなく、命のやりとりそのものです。人間は心臓を刺されても脳が15秒ほど生きて体を動かせるため、気を抜けば負けてしまう厳しいものでした。だからこそ、卜伝は徹底的に準備し、勝てる状況をつくってから戦うことで「負けなし」の伝説を築きました。
卜伝に挑んだ若い剣士は、偶然で勝つ可能性もありましたが、もしそれが運であれば、次の試合で負けるかもしれません。それでは武術の意味がありません。プロの格闘家も命をかけた戦いでは、場合によっては素人に負けることもあるのです。
日本武道は、自分が死ぬ覚悟を前提としています。誰しも死にたくないですが、命がけで戦わなければならないときがあります。そのときに備え、自然な動きになるまで鍛錬を重ねることが重要なのです。このように、日本の武道は奥深いものだと感じられます。
戦国時代の試合は命がけです。ルールや審判もありません。そんな中で「常に勝つ」ためには、ただ強ければ良いというものではありません。勝つためには、日頃から動きが自然になるまで常に鍛錬を重ね、その上で各戦いごとに創意工夫が必要なのです。
私たちがこれからの日本を考える場合も同じです。
日頃から日本とは、日本人とはどのようなものであるのかを真骨に刻み、さらに現状の問題点を改善するために、常に創意工夫を凝らし続ける。
ただ相手を詰（なじ）ればよいというものではないのです。
※この記事は2022年11月のねずブロ記事のリニューアルです。
お読みいただき、ありがとうございました。
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