| ひとりの力は小さいといいます。けれどゼロじゃない。ならばその小さな力が何十、何百、何十万、何千万と集まったら、世界が変わる。西洋や大陸の文化は、ひとりが巨大な力を独占するというものです。けれど日本の文化は違います。みんなが持つちょっとずつの力が集合体となりコミュニティを形成し、時代を変えるのです。 |


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「一隅を照らす」という言葉があります。
伝教大師が桓武天皇に宛てて記した「山家学生式(さんげがくしょうしき)」にある言葉です。
「径寸十枚
是れ国宝にあらず。
一隅を照らす
是れ即ち国宝なり」
意味は、
直径3センチもある宝石十個(金銀財宝)が国の宝なのではない。
世の中の一隅で暮らす人々が、その場所で精一杯努力して光りを放つこと。
それこそが国の宝である。
といったものとされています。
原文は
照于一隅此則国宝
となっています。
「一隅を照らす」と書きたいだけなら、「照一隅」で良いのです。
けれど原文では、なぜか「照【于】一隅」と「于」の字が入っています。
「于」という漢字は、長い刀の象形で、ここから長い、永いを意味するときに使われる文字です。
ですから「于」にウカンムリが付けば「宇」になります。
地球から観たら傘か屋根のように見える大空、星空は、じつは果てしない。
だからウカンムリに「于」と書いて「宇」です。
つまり「于」は、果てしなく続くことを意味します。
ということは、伝教大師が「照【于】一隅」と、あえて「于」を入れて書かれたということは、
単に「一隅を照らす」だけでなく、それを「照らし続ける」、「永遠に照らし続ける」と述べていることになります。
よく講義などで、
「ねずさんの話を聞いて感動したけれど、
自分でどうしたら良いのか、
何をしたら良いのかわからない」
といったご質問をいただきます。
答えは、「一隅を照らす」です。
何か大きなことをするとか、世直しをするとか、そんな大きなことではないのです。
それはあくまで結果であって、我々が日々すべきことは、その日その日に自分なりにできる一隅を照らすこと、しかもそれを、「照らし続ける」のです。
結局の所、継続は力なり、なのです。
すごい人、と呼ばれる人がいます。
そうした人たちの、何がすごいのかといえば、それは「続けた」ことです。
続けたからすごいのです。
1億円の宝くじに当たったというのは、ただの偶然か運です。
そのような僥倖を得ることができる人も、世の中にはあるのでしょうけれど、そのような人は、1億人にひとりなのです。
そうではなく、日々コツコツと善行を積み重ねる。
それをひとりではなく、みんなで行う。
一億人が1円ずつ持ち寄れば、1億円になってしまうのです。
それを30日続ければ、30億円です。
10年で300億、100年で3000億円です。
続けるのです。
ほんのちょっとで良い。
続けることが、実は「照于一隅」の意味です。
現状を憂いても、すぐには何も変わりません。
けれど憂いているのなら、一隅を照らす、照らし続ける。
比叡山に、伝教大師の童形像があります(トップの画像)。
この像は、全国の小学生が、当時のお金で1銭(いまの1円)を出し合うことで建てられた像です。
小学生の1円が、これだけ立派な像になるのです。
大人たちが力を合わせれば、どれだけのことができるのか。
全国の大型一級河川には、広大な堤防があります。
その堤防のほとんどは、まだ建設重機のなかった江戸時代に、地域の人々が力を合わせて、人力でモッコを担いで築き上げたものです。
ひとりの力は小さいといいます。
けれどゼロじゃない。
ならばその小さな力が何十、何百、何十万、何千万と集まったら、世界が変わる。
これが日本式です。
みんなの心が動くまでですから、この仕組みは時間がかかりますし、民度の高さも必要になります。
だからこそ神々の支援を得ることができるのです。
西洋や大陸の文化は、ひとりが巨大な力を独占するというものです。
この仕組みは、誰かひとりの決断ですぐに戦争ができる仕組みです。
歴史を振り返れば、それは国を守るために必要なことであったのでしょうが、支配された多くの民衆の涙が犠牲が、結果の中にあります。
そしてそれらは、歴史のなかで「なかったこと」にされてきました。
ところが今私たちは、情報化社会の中にあります。
ひとりの発信が、多くの人々の共感へとつながり、それが別なインフルエンサーに飛び火して、社会全体を動かす大きな力になる時代へと向かっています。
こうした時代には、誰かひとりのリーダーによって日本が変わるということではなく、人々の意識の集合体が世の中を変えていきます。
最近Netflixで「消せない週末」という映画が公開されました。
何かが狂い、世界中がその狂いに呑まれていく・・・そのような映画です。
俳優さんたちの熱演があって、とても良い映画に仕上がっていました。
ただ、「わけのわからないこと」に遭遇したときに、その映画の中では、ひとりひとりがそれぞれに「身勝手な自己主張」ばかりを展開することで、事態がどんどん悪い方向に向かっていました。
「なるほど、アメリカ映画らしい描写だな」と思いました。
日本人は「わけのわからない」事態に遭遇したとき、「ゴジラ-1.0」と同じです。
笑顔で、集団で、力を合わせて、そしてひとりひとりがそれぞれにできる力を発揮して、大きな問題に立ち向かおうとします。
誰が偉いとか、中心が誰かではないのです。
みんなの思いが、ゴジラとの対決へと向かい、見事ゴジラを退治します。
これが日本式です。
伝教大師の言葉の「一隅を照らす」は、原文では「照于一隅」と書きます。
「于」があるのです。
だから、一隅を照らすだけではないのです。
照らし続ける、のです。
※この記事は2023年1月のねずブロ記事のリニューアルです。
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