個の時代に入ろうとしているときに、資本を配っても、その資本は一部の個の懐(ふところ)にしか入らない。全体の景気を上向かせる力にならないのです。
そうではなくて、個の力を伸ばすこと。
日本人ひとりひとりが、さまざまな分野で、世界に影響を与えることができるような人材に育っていくこと。
財政はそのために出動すべきものであったこと。
そういう時代の変化があることを、私たちはかつて大成功をおさめた高橋財政から学ぶべきなのだと思います。

高橋是清
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小名木善行です。
この記事は11年前の平成21年(2009年)10月10日に公開したねずブロ記事の再掲です(すこし文章を読みやすいように修正しています)。
当時、高橋是清はあまり注目を集めていなかったように思いますが、バブル崩壊から15年、デフレの波が押し寄せていることを誰もが実感し、一方でこの前の月に、メディアの圧倒的な賛意のもとに発足した鳩山内閣が、実はとんでもない亡国内閣であることが明らかになりつつあった時期にあたります。
けれども、日本がデフレ経済で苦しんだのは、バブル崩壊後のことだけではなく、戦前の世界大恐慌のさなかにおいても同じでした。
そしてそんな世界大恐慌の渦中にあって、一足早くデフレを抜け出したのが、当時の大日本帝国であり、その仕掛け人となったのが高橋是清であったわけです。
そこで当時の本文を振り返って、あらためてこれからの日本や世界を考えてみたいと思います。
*****
昭和恐慌と高橋財政
https://nezu3344.com/blog-entry-655.html
大正7(1918)年に集結した第一次世界大戦は、わが国に大戦景気と呼ばれる大好況を招き、日本の経済は大発展を遂げました。
ところが戦後欧州の製品がアジア市場に戻ってくると、戦後恐慌が発生し、これに関東大震災(1923年)が追い打ちをかけて、震災恐慌と呼ばれる深刻な不況が到来します。
すでにこの時点で国内の銀行は不良債権問題で経営力を弱化させていました。
ただでさえ弱っていた日本経済に、時の大蔵大臣の片岡直温(かたおか なおはる)が、
「渡辺銀行がとうとう破綻いたしました」
と失言してしまう。
この結果、預金者が終業間際の東京渡辺銀行に殺到するという、取り付け騒ぎが起こり、銀行が次々休業に追い込まれる事態となりました。
それが昭和2(1927)年の「昭和金融恐慌」です。
このような状況下で、昭和4(1929)年、立憲民政党の浜口雄幸(はまぐち おさち)内閣が成立しました。
浜口雄幸は、徹底した緊縮財政政策を図りました。
政府の支出を大幅に削減し、国内景気対策のために必要な財政出動も、次々執行を停止しました。
経済は、人の体でいったら血液です。
血圧が下がり、瀕死の状態になった人体には輸血が必要です。
これと同じで不況下では、積極的な財政出動(輸血)が必要でした。
ところが浜口内閣は、産業合理化政策、軍事予算の削減を進めました。
これによって中小企業の多くが倒産していきました。
こうした状況の中で起ったのが、同じ年、昭和4(1929)年11月に起ったのニューヨーク・ウォール街の株価の大暴落です。
この大暴落の影響は一瞬で世界に波及し、世界経済はいっきに沈滞化していきました(世界恐慌)。


こうしたときにはなによりも「自国の経済の保護を図る」ことが優先されるべきなのですが、浜口内閣は、逆に金の輸出入を解禁し、解禁後僅か2ヶ月で約1億5000万円もの正貨が国外に流出ししてしまいます。
つまり、貧血で苦しんでいる日本から、さらに血液(カネ)を流出させたのです。
昭和5(1930)年3月になると、日本国内の株式・商品市場は大暴落しました。
当時の主要産業であった生糸、鉄鋼、農産物等の物価も急激に低下しました。
そして中小企業の倒産が激増し、失業者が街にあふれました。
4月には、新卒の就職時期にあたるけれど、いまより遥かに価値が高かった大学・専門学校卒業生のうちの3分の1が職につけないという状況になりました。
農村部では、生糸の対米輸出が激減したことに加え、デフレに豊作が重なって米価が激しく下落しました。
これにより農家の経済は壊滅的な打撃を受け、「米」と「繭」の二本柱で成り立っていた日本の農村は、その両方が倒れることとなり、困窮のあまり青田売りが横行。
さらに欠食児童、女子の身売りなどが深刻な社会問題となっていきます。
ところが当時の浜口雄幸総理の行ったことといえば、
「我々は、国民諸君とともにこの一時の苦痛をしのんで」
という国民への呼びかけだけだったのです。
「国内の不況は一日にして好転するようなものではありません。
 緊縮財政その他の政策は、日本経済正常化への端緒であり、
 その後長い苦節を耐えた後に、
 日本の経済構造が改革されるのです」
という当時の浜口内閣の国民への呼びかけは、まるで現代日本のグローバリストたちによるメディアの評論とまったく同じものです。
これによって大不況であった日本は、政府の政策によってさらに不況が深刻化していきました。
いまでは浜口内閣の経済政策は、歴史に名を残す失政であったことは疑いの余地がないといわれています。
こうした中で、浜口雄幸総理は、昭和5(1930)年11月14日、東京駅第4ホーム(現在の東北新幹線改札付近、記念碑があります)で、愛国社の佐郷屋留雄(21歳)に銃撃されました。
弾丸は浜口雄幸の骨盤を砕き、東大病院にて腸の30%を摘出したけれど、彼は一命を取りとめる。
そして翌・昭和6(1931)年3月に、衆議院に登院するけれど、5ヵ月後に亡くなりました。
浜口雄幸総理不在の間、幣原喜重郎が臨時首相代理を務めましたが、日本経済にはなんの貢献もなく、不況はますます深刻化していきました。
銃撃した佐郷屋留雄は、熊本出身の愛国社党員でしたが、彼は銃撃について、
「濱口は社会を不安におとしめた。
 だからやった。何が悪い」と言いきっています。
娘を遊女に売らなければならないほどの深刻な経済不況を招いたのです。
怪我をされた浜口雄幸はお気の毒だけれど、彼の政策で日本全体が受けた苦難を考えれば、佐郷屋氏の行動はともかく、言い分には理解もできます。
佐郷屋は後に昭和29(1954)年には、血盟団事件の中心人物である井上日召と共に右翼団体護国団を結成、第二代団長となり、昭和34(1959)年には、児玉誉士夫らがいる全日本愛国者団体会議(全愛会議)の初代議長となりました。
彼の弟子の黒崎健時氏は、のちに空手「極真会館」のナンバー2となり、日本とオランダでキックボクシングを育てています。
ちなみに、故・大山倍達氏が「歴代の弟子の中で一番強い」と語った人物です。
その弟子に、小比類巻貴之、魔裟斗などがいます。
話が脱線しましたが、ようやく昭和6(1931)年12月になって、政友会に政権が交代しました。
発足したのが犬養毅(いぬかい つよし)内閣です。
犬養は、以前首相も経験したことのある高橋是清を大蔵大臣就任させました。
高橋是清は、積極的な財政出動で知られる人物です。
彼は、矢継ぎ早に、景気対策を行いました。
結果を見てみます。
【昭和恐慌時の実質経済成長率(%)】
      経済成長率
 昭和2年  3.4%
 昭和3年  6.5%
 昭和4年  0.5% 浜口雄幸内閣発足
 昭和5年  1.1%
 昭和6年  0.4% 高橋是清大蔵大臣就任
 昭和7年  4.4%
 昭和8年 11.4%
昭和6年に高橋是清が大蔵大臣に就任したときに、まさにボトムを打っていた日本経済は、氏の積極的財政出動によってみるみるうちに経済を回復させ、わずか2年後で、2桁成長をみるに至っています。
しかもこの間、物価の上昇率は、年3~4%にとどまっています。見事なものです。
工業生産高は2.3倍に拡大、
銀行の不良債権処理もいっきに進みました。
そしてこの間、日銀券の発行量は40%増えました。
どれだけ積極財政出動を行ったかがわかろうというものです。
高橋財政を「軍需インフレ政策」と指摘している学者もいるそうです。
しかし、大艦を建造し、戦闘機を増産し、軍事施設を築き、軍人を雇用することは、そのまま政府による産業の育成と雇用の創造につながります。
だれだって貧乏はいやです。
娘を遊女になんて売りたくない。
それだけにこうした政府による産業の育成と雇用の拡大は、どれだけ多くの日本人を救ったか計り知れないものがあるといえます。
しかも当時は、国際的な軍事的緊張が高まっていた時代です。
世界恐慌の脱出のために軍事費を増やしたことは列強各国に共通している政策でもあったのです。
一部の学者は、高橋是清が軍事予算を拡張したことで、インフレを招いたと指摘しますが、本格的に軍需支出が増えだしたのは昭和12(1937)年以降のことです。
むしろ経済があまりにも順調に回復し、経済成長率が2ケタを回復したところで、高橋是清は財政の引締め政策に転換し、軍事予算を削ろうとしています。
その結果、高橋是清は、軍部の反発をかい、昭和11(1936)年の2.26事件で殺されています。
軍事費が本当に増えだしたのは、高橋是清の死後のことなのです。
また一部の学者は、高橋是清が地方の公共事業費を増やしたことについて「土木業者だけが潤った」と批判します。
しかしこれによって失業が減ったのは事実です。
一部の学者は、高橋積極財政出動によって、農村部の経済が上向かなかったことを指摘します。
しかし当時の農村は凶作続きで、これは財政問題とは異なります。
(中略)
清貧の思想というか「国民諸君とともにこの一時の苦痛をしのんで」などときれいごとをいう宰相のために、多くの若い女性が売春婦となりました。
中小企業がバタバタと倒産し、国内には失業者がまん延しました。
宰相が変わっただけで、わずか2年、たった2年で、日本の経済は大好況となりました。
こうした歴史を、私たちはもういちど思い返してみる必要があるのではないでしょうか。
*********
一点だけ捕足しておきます。
昭和4(1929)年11月に起ったのニューヨーク・ウォール街の株価の大暴落にはじまる世界恐慌は、実は、現在のコロナ騒動と同じです。
この時代のアメリカ大統領は、カルバン・クーリッジ(共和党)でした。
クーリッジは、米国の経済を活性化させ、「狂騒の20年代」と呼ばれるほどの好景気を全米にもたらしました。
このあとを受けた大統領がフーバーで、フーバーは鉱山開発で大儲けをした圧倒的金持ちでした。
このあたりも不動産やカジノで大儲けしたトランプ大統領とよく似ています。
フーバーは、「どの鍋にも鶏1羽を、どのガレージにも車2台を!」というスローガンを掲げて米国大統領選に勝利すると、強いアメリカを標榜して米国における通貨の外国の金融資本による支配を拒否しようとしました。
そんなフーバーを好ましからざる人物と見た金融資本が、フーバーを葬るために仕掛けたのがウォール街の株価の大暴落であったといわれています。
ちなみにフーバーは、義和団事件のときに外国人特区でチャイニーズの暴徒に囲まれたひとりで、事件当時の日本人の活躍を目の当たりにすることで、日本との関係を良好に保ちたいとした大統領でもありました。
ところが金融資本にとっては、チャイナの市場、および日本が成功させた満州への食指が優先しましたから、フーバーは金融によるマネーの支配と東洋の支配にとって、邪魔な存在であったわけです。このあたりも現在のトランプ大統領の立場とよく似ています。
結果フーバーは、一期のみの大統領となり、フランクリン・ルーズベルトに次の大統領を譲ることになり、日本は戦争に巻き込まれていきました。
いまの米国におけるトランプ対バイデンの戦いは、トランプ氏とバイデン氏との戦いでも、共和党と民主党との戦いでもありません。
米国を操る金融資本(グローバリスト)たちと、民衆の正義との戦いです。
メディアの報道は、あたかもバイデンでもう結果が出たかのような報道ですが、まだ結論が出たわけではありません。
こうした報道姿勢は、日本も米国もまったく同じです。
つまり、日本も支配されているわけです。
その意味では、巷間よく言われる「右翼と左翼の戦い」などという言葉は、まやかしにすぎず、実はその本質にあるのは、あらゆる非合法手段を駆使して世界を支配しようとする金融資本(グローバリスト)と、民衆にとっての正義の実現への渇望との戦いなのであろうと思います。
さらに言うと、これはこれまでの時代と、これからの時代の端境期を示す戦いでもあります。
これまでの時代は、全体が個を守るという構造を持った社会でした。
ですから個は全体にぶら下がっていれば足りました。
これからの時代は、情報やインテリジェンスなどによって、個が全体を動かす時代です。
時代は変わったのです。
これまでの価値観に埋没した人たちは、現実から目を背ける以外、何もできなくなるし、全体にぶら下がることによって利益を得ていた人たちは、その財も地位も失うことになります。
このことはもっというと、資本と個人の戦いでもあります。
資本が世の中を動かした時代から、情報やインテリジェンスを持った個人が世の中を動かす時代へと、今、変ろうとしているわけです。
高橋財政は、その時代において大成功をおさめましたが、現代においては、政府が従来路線の財政出動をしても、その出動は一部の利権者に吸い上げられるだけで、一般庶民の元に届かず、消費は上向きません。
Gotoキャンペーンのように直接消費に結びつく財政出動をしても、1日あたりの旅費の市場規模は、これまでの正常時における1日の市場規模に手が届きません。
Gotoがいけないと申し上げているのではないのです。これは必要なことですし、やって良かった財政出動であったと思います。
財政出動というなら、軍事産業に政府は10年で200兆円規模の財政出動を決めるべきだし、大学が日本の軍事に関する研究を拒否するなら、そのような会議は即刻廃止すべきです。
そういう意味で、gotoを含めた財政出動を否定しているわけではないということを先に申し上げておきます。
それらは、「いますべきこと」です。
ただ、そうした資本(金)が世の中を動かすのではない時代に入ってきているということを申し上げています。
簡単な話、アホに100億円与えても、世の中は良くならない。当たり前のことです。
優秀な人は、お金を与えなくても、自らの人生を切り開き、世の中を変えたり動かしたりすることができます。
そういうことなのです。
そういう意味で、日本はいま、ひとりひとりの個人が変わるべきときにきています。
知恵や知識や、情報の解析力や洞察力といった個人の資質が、これからの時代を生きる武器になる時代がやって来ているのです。
高橋財政のことを書いた2009年当時、財政出動によるデフレ対策のために随分と運動させていただきましたし、実際、そうした財政出動が行われもしましたが、それらは必ずしもうまくいくものではなかったし、デフレ脱却には程遠いものでありました。
高橋財政は、大成功を収めたのに、どうして今は政府が財政出動しているのに、どうして経済が上向かないのか。
当時は本当に不思議でした。
やり方が悪いのではないかと考えました。
けれど今にしてみれば、時代が変わっていたのです。
個の時代に入ろうとしているときに、資本を配っても、その資本は一部の個の懐(ふところ)にしか入らない。
全体の景気を上向かせる力にならないのです。
そうではなくて、個の力を伸ばすこと。
日本人ひとりひとりが、さまざまな分野で、世界に影響を与えることができるような人材に育っていくこと。
財政はそのために出動すべきものであったこと。
そういう時代の変化があることを、私たちはかつて大成功をおさめた高橋財政から学ぶべきなのだと思います。
お読みいただき、ありがとうございました。
歴史を学ぶことでネガティブをポジティブに
小名木善行でした。

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