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日本人としての、古くからの文化を取り戻すことが、日本を取り戻す、一見、遠回りに見えるけれど、もっとも近い道程なのだと思います。そのひとつが霊(ひ)の概念です。


20200103 松飾り
画像出所=http://shop.juttoku.jp/?pid=110157992
(画像はクリックすると、お借りした当該画像の元ページに飛ぶようにしています。
画像は単なるイメージで本編とは関係のないものです。)

初詣に神社に行きますと、そこで二礼二拍一礼をします。
このとき、二拍するに際しては、まず先に両手を合わせたあと、右手を左手の指先から第一関節のあたりまで少し下げるのが作法です。
なぜそのようにするのかというと、参拝は「自分の霊(ひ)が神様にご挨拶するのだから」というのが理由です。
神様にご挨拶するのは、自分の肉体《身(み)》ではなく、自分の魂《霊(ひ)》です。
ですから「霊(ひ)」を意味する《左手》を前に出し、身(み)を意味する《右手》をすこし引くのです。
これは玉串奉納のときも同じで、玉串は「時計回りにまわして祭壇に捧げる」などと説明されますが、時計回りはその通りなのですけれど、要するに最後に祭壇に捧げる段階で、榊(さかき)を持った自分の左手が神様の方に差し出されるのです。
これもまた「霊(ひ)」が先、というところからきています。
昔の朝廷には、左大臣と右大臣がいたことは、みなさまご承知の通りです。
左大臣と右大臣では、左大臣が上です。
なぜなら左大臣は(ひ)だからです。
ちなみに左大臣の座る席は、天皇から見て左側です。
下座から見上げると、向かって右側に左大臣が座ります。
このような「霊(ひ)が上、身(み)が下」という考え方は、我が国にとても古くからある慣習です。
いつから始まったかさえもわからない。
ただ、律令体制が成立した大化五年(649年)には、初の左大臣に阿倍内麻呂が就任したという公式記録がありますから、すくなくとも七世紀には、すでにこうした知恵が定着していたものと思われます。
つまり最低見積もっても1400年以上の歴史を生き抜いた知恵といえます。

20191006 ねずラジ
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さらにこのことは古来からある天皇の「男系」にも影響を与えています。
「ひふみ」と言いますが、これは「霊(ひ)生(ふ)身(み)」のことを言います。
つまり「霊から生まれる身」ということです。
女性は、その「身」から赤ちゃんという「身」を産みます。
赤ちゃんを産むことができるのは、女性だけができることであって、男性にはできません。
けれど、女性の胎内にある「卵」は、何もしなければ、そのまま「月のもの」として排出されてしまいます。
懐妊するためには、女性の胎内の「卵」に、「霊(ひ)」を授けなければなりません。
その「霊(ひ)」を授けるのは男性の役割です。
男性は「たま」で魂(たま)をつくります。
「魂」というのは、「霊(ひ)」のことです。
その「霊(ひ)」を授かることで、女性は懐妊し、赤ちゃんが生まれます。
男女の愛と睦(むつみ)によって生まれる子のことを「血統」と言いますが、天照大御神から綿々と続く「霊(ひ)」の流れを受け継ぐことは、「霊統」を受け継ぐということです。
天皇の権威は、天照大御神から続く、この「霊統」に依拠する正当性によります。
従ってその子が、誰の「霊(ひ)」を受け継いでいるのかが重要となり、これが男系天皇の意味するところであり、万世一系の根拠です。
こうしたことは、我が国においては祖代からある常識で、その常識は、わかりやすくて、誰もが覚える数詞としても定着していました。
みなさまも子供の頃、
「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いつ、む、なな、や、ここのつ、とぉ」
と数えた記憶があろうかと思いますが、算術ではまったく用いることのないこうした数詞を、なぜ世の親たちが子に最初に教えたかというと、この数詞には、我が国における人としての重要事が読み込まれているからです。
まずはじめにの「霊(ひ)生(ふ)身(み)」は、上に述べた通りです。
諸説ありますが、もっともわかりやすいと思われるのは次の通りです。
「ひ」 霊(ひ)のことです。何事も霊(ひ)が先です。
「ふ」 生(ふ)霊(ひ)から生命が誕生します。
「み」 身(み)誕生するのが「身」です。
「よ」 世(よ)霊(ひ)の備わった身(み)が織りなす世です。
「いつ」齋(い)いつき(齋)(=清浄)のことです。
「む」 無(む)無であることによって億兆に心が通います。
「な」 菜(な)食のことです。
「や」 彌(や)食があまねく行き渡る。
「ここ」兹(ここ)いつくしみ。
「と」 戸(と)天の石屋戸が開く。
この「ひ」から「と」までを文章にすると次のようになります。
「霊(ひ)から生(ふ)じた身(み)が織りなす世は、
 常に齋(い)として清浄を保ち、
 心を無(む)にして億兆と心を通わせ、
 いただく菜(な)を
 あまねく行き渡らせ(彌(や))る
 いつくしみの心(兹(ここ))で
 あらゆる岩屋戸(と)を開く。」
「世(よ)」は「齋(い)」で、斎(いつ)くものというところから、我が国では清潔が重んじられ、屋敷内は常に清潔に毎日雑巾がけをしてきれいに掃除をするし、野菜などの食べ物も、水でよく洗って調理していただくという習慣になっています。
トイレの神様などといった発想も、実はここから来ています。
心を無(む)にすることというのは、欲をかかないということです。
斎戒沐浴して、心身を清浄に保ち、心を無(む)にして神々とも、そして億兆の人々とも心をつなぐ。
これを別な言い方では、「中今(なかいま)に生きる」と言います。
また、いくら霊(ひ)が本体、身(み)はその乗り物にすぎないとはいっても、健全な精神は健全な肉体に宿るともいいます。
身(み)を粗末にしてはいけない。
生き生きとした新鮮な菜をいただくことで、身の健康を保たなければなりません。
またここで食について、あくまで「菜」という言い方をしているところも興味深いところです。
菜は「あおもの」、つまり野菜全般を指しますが、縄文以来、私達日本人は、野菜と魚類は食べても四足の生き物の肉はいただかなかったということです。
その菜を、あまねくいきわたらせるには、農業の振興とともに、互いのいつくしみの心が必要です。
訓読みで「ここ」という読みを持つ漢字は「兹、此、茊」の3つですが、わかりやすいのは「兹(ここ)」で、下に心を付けると「慈」になります。
要するに「いつくしみ」は、霊(ひ)と身(み)の根幹となる使命であり命題であるということです。
そして「戸(と)」。
我が国で「戸」といえば、天の石屋戸です。
その岩屋戸を開くことで、天地に太陽が戻ったのです。
つらい人生であっても、いつくしみの心を忘れないで生きることで、必ず岩屋戸は開かれる。
これが「ひ」から「と」までの意味です。
「ひふみ」といえば、ひふみ神示を思い浮かべる人もあろうかと思いますが、それよりもずっと古くからあるのが「ひふみ祝詞」です。
◆◆◆ひふみ祝詞◆◆◆
ひふみ よいむなや こともちろらね
しきる ゆゐつわぬ そをたはくめか 
うおえ にさりへて のますあせゑほれけ
この祝詞の意味や解釈は、やはり長い歳月の間に諸説生まれていますのでここでは省略します。
ただひとついえることは、我が国には、祖代から続く長い歴史と伝統に基づく文化があり、その文化には、それぞれにしっかりとした意味がある、ということです。
私達の先輩の世代までは、幼い頃に数詞として「ひふみ」を教わり、その言葉の持つ意味を成長して学識を得ることによって、それぞれがさらに深い知識とし、これを生きる意味にしていったのです。
「伝統には意味がある。」
日本人としての、古くからの文化を取り戻すことが、日本を取り戻す、一見、遠回りに見えるけれど、もっとも近い道程なのだと思います。
そのひとつが霊(ひ)の概念です。
お読みいただき、ありがとうございました。

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