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記紀が書かれた時代には、富士山もまた、噴煙をあげる活火山でした。
アカホヤの記憶が残る日本では、富士山のことを話題にして、今度は富士山が爆発したらたいへんなことになる。
そう考えられて、記紀には富士山のことに触れられていない。
同様に、アカホヤのことも触れられていない。
その代り、アカホヤの噴火を生き残った人たちが、どのようにして日本全国に広がって行ったのかが、記されたのではないでしょうか。

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| 七五調で読む古事記 1 天之御中主神 2 諸命以 3 成り成りて 4 蛭子誕生 5 太占(ふとまに) 6 国生み 99 しほみつるたま |
かくのごと いひおえて
如此言竟而
みあひして うみませるこは
御合生子
あはぢのほの さわけしま
淡道之穗之狹別嶋(訓別、云和気。下效此)
つぎにはいよの ふたなしまうむ
次生伊豫之二名嶋
このしまは
此嶋者
みひとつに おもてよつあり
身一而有面四
おもてのごとに ながありて
毎面有名
かれいよのくに えひめといひ
故、伊豫国謂愛上比賣(此三字以音、下效此也)
さぬきのくには いいよりひこ
讚岐國謂飯依比古
あはくには おほげつひめ
粟國謂大宜都比賣(此四字以音)
とさくには たけよりわけと いひませる
土左國謂建依別
つぎにはおきの みつこしま
次生隠伎之三子島
またのなあめの おしころのわけ
亦名天之忍許呂別(許呂二字以音)
つぎうまれるは つくししま
次生筑紫島
このしまもまた みひとつに おもてよつあり
此島亦、身一而有面四
おもてのごとに ながありて
毎面有名
つくしのくには しらひわけ
故、筑紫国謂白日別
とよくには とよひわけ
豊国謂豊日別
ひのくには たけのひむかの ひのとよくじの ひねのわけ
肥国謂 建日向日豊久士比泥別(自久至泥以音)
くまそのくに たけひわけ
熊曽国謂 建日別(曽字以音)
つぎうむは いきのしま
次生伊伎島
またのなあめの ひとつのはしら
亦名謂天比登都柱(自比至都以音、訓天如天)
つぎにつしまを うみましき
次生津島
またのなあめの さてのよりひめ
亦名謂天之狭手依比売
つぎにうむは さどがしま
次生佐度島
つぎにうむは ひろきやまとの ゆたかなる あきつしま
次生大倭豊秋津島
またのなを あめしろしめす うろのそらなる ゆたかなる あきつねのわけ といふ
亦名謂天御虚空豊秋津根別
ゆゑにこの やしまをさきに うむにより
故、因此八島先所生
おほやしまのくにといふ
謂大八島国
はじめに水蛭子(ひるこ)が生まれてしまったイサナキとイサナミは、あらためて創生の神々から御神託を得て、再度、天御柱(あめのみはしら)をまわり、今度は男性の方から声をかけることで、国生みが行われます。
まぐわいを行うにあたって男性から声をかけるというのは、物事の合理性を云います。
男性は種を撒(ま)くだけですから生涯の出産回数に制限はありません。
| 『ねずさんのひとりごとメールマガジン』 |

一方女性は、生涯の出産回数に制限があり、しかも妊娠期間中や子供が幼いうちは、乳をあげたりおしめを変えたりと手がかかり、子供が成長するまでの間、生活のための糧(かて)を得ることができません。
つまり産前産後から子が成長するまでの間、男性が女性の面倒を見なければならないのですが、はじめに女性の側から声をかけてコトに及べば、男性は、ただ求められて種を撒いただけのことになってしまい、以後の女性や子供の面倒をみる責任が生じません。
ところが男性の側から声をかけて種を植えたとなれば、そのことについての責任は、当然男性が負うことになります。
従って、子の安全を確保するためにも、コトに及ぶときは男性から声をかけることが必要な道理になるわけです。
こうして子が生まれます。
はじめに生まれた子は、淡道之穂之狭別島(あはぢのほのさわけしま)です。
これは淡路島のことですが、「稲穂の狭別」というのは、稲穂を挟(はさ)んで二つに分けるという意味になります。つまり本家から分かれて、そこに稲穂を持って入植したということになります。
次に生まれたのが伊予之二名島(いよのふたなのしま)で、これは四国のことです。
四国は、体はひとつなのですが顔が四つあって、その顔ごとに名前があると記されています。
四つというのは、愛媛県(伊予国)、徳島県(阿波国)、高知県(土佐国)、香川県(讃岐国)です。
伊予国は別名が愛比売(えひめ)です。
讃岐国は、飯依比古(いいよりひこ)です。
粟国(阿波国)は、大宜都比売(おほげつひめ)です。
土佐国は、建依別(たけよりわけ)です。
比売(ひめ)と比古(ひこ)と別(わけ)の三種がありますが、なぜこのような別名が付せられているのかというと、「その名の姫や彦が、はじめにその地に入植したことを表している、別というのは、その入植者からさらに子や孫が分かれて入植したことを示しているのではないか」というのが、『ねずさんの古事記』での解説です。
以下、隠伎之三子島(おきのみつごのしま)、筑紫島(筑紫国、豊国、肥国、熊曽国)、伊伎島、津島、佐渡島が生まれ、最後に大倭豊秋津島(おほやまととよあきつしま)が生まれます。
そしてここまでの島が先に生まれたから「大八島国」と呼ばれるようになったのだと古事記は書いています。
大倭豊秋津島の別名は、天御虚空豊秋津根別で、一般に「あまつみそらとよあきつねわけ」と読みくだされますが、上の七五読みでは、「あめしろしめす うろのそら とよのあきつね わけ」と読ませていただきました。
「天御」は「天(あめ)の御(しろしめ)す」です。
「虚空」の「虚」は訓読みが「うろ」、「空」は「そら」ですから、虚空にある天の神々が御(しろしめ)すです。
「豊秋津」は、秋津(あきつ)は、トンボのことであるとされますが、奈良県吉野町のあたりや御所市のあたりは、大昔は秋津町と呼ばれたところです。
しかし、そうとはいっても「豊秋津」が「豊かなトンボ」では、何を意味しているのかわかりません。
また「秋の津」でも、その意味はつかむことができません。
ところが大和言葉は一音一字一義です。
それで「あきつ」を考えると、次のようになっています。
「あ」=生命の出会い(訓読みが「あ」の漢字=合逢遭和)
「き」=生まれ出るエネルギー(訓読みが「き」の漢字=気木生黄樹)
「つ」=集まる海辺の津(訓読みが「つ」の漢字=津尽浸付)
つまり「あきつ」というのは、
「生命が出会って
新たなエネルギー(子)を生み、
その人たちや子や子孫が集まる海辺の津」
を意味する単語ということになります。
「出会い、広がり、また集う」というのが日本の古くからの考え方です。
出会うことで何かが始まり、それを広げ、また集う。
その繰り返しを継続することが、繁栄と安定を生むのです。
その意味で秋津島を最初に描くのではなく、最後に描いたと読むことができるのです。
ほとんど秘伝的な記述の部分です。
ところで、古事記にも日本書紀にも、富士山の記述がありません。
なぜないかについては諸説ありますが、ひとついえることは、記紀はいずれも日本史上最大の噴火であるアカホヤの破局噴火のことについても、ひとことも触れていないことです。
火山の噴火はおそろしいもので、溶岩の恐ろしさだけでなく、噴煙に含まれるガラス成分が肺に突き刺さり、肺を持つすべての動物を死に至らしめます。
七三〇〇年前に起こった鹿児島沖のアカホヤの大噴火は、その火山灰が遠く東北地方にまで数十センチ降り積もったほどの大噴火であったわけですが、当然のことながら、降ってきたのは火山灰だけでなく、ガラス成分もまた大気中に拡散されたわけです。
地上の作物は火山灰に埋もれ、生物は肺をやられて死に至る。
おそらくこのアカホヤの大噴火のとき、日本列島ではかなりの数の人がお亡くなりになったものと思われます。
ただ、おもしろいのは、人間というものは(人間だけに限らずすべての動物がそうですが)、壊滅的な災害に遭っても、必ずそこを生き延びる人がいるということです。
ですからアカホヤの大噴火のとき、おそらく日本列島では人口の7〜9割の人がお亡くなりになるという大悲劇があったものと思われますけれど、だからといって、日本列島で暮らしていた人々がすべて死滅したことにはなりません。
3万年前から1万6千年前くらいまで、曙海の沿岸で暮らしていた人々は、海面の上昇によって土地を追われ、その一部の人達が北上して日本列島に移り住み、日本全国のあちこちに移り住んだことでしょう。
そしてそこで何千年もの営みが続けられるのですが、7300年前のアカホヤの破局噴火で、その多くが死滅してしまいます。
なにしろ破局噴火というのは、普通の噴火もおそろしいですが、そのおよそ400倍の威力があるのです。
けれど不思議なもので、どんな壊滅的天変地異があっても、そのなかで必ず生き残る人たちがいます。
この時代は縄文時代にカウントされていますが、縄文時代の遺跡はアカホヤの噴火前も噴火後も継続して日本列島に存在しているのです。
人口はおそらく3分の1から10分の1くらいにまで減少したことでしょう。
けれど生き残った人たちは、互いに協力しあって生活し、その子孫が日本列島にあらためて広がって行くのです。
そんな様子が、今回の古事記の記述のところに記されているのではないかと、私は思っています。一組のカップルであっても、倍々ゲームで子孫が増えていけば、たった700年で計算上は1億3千万人に達します。
日本の歴史は、700年どころか万年の単位で続いているのです。
しかし、アカホヤの破局噴火のようなおそろしい出来事は二度と起こってほしくない。
だから記紀には大噴火のことは、富士山を含めてまったく記されていません。
なぜなら日本は言霊の国だからです。
言ったことが現実化してしまうのです。
触らぬ神に祟(たた)りなしです。
記紀が書かれた時代には、富士山もまた、噴煙をあげる活火山でした。
アカホヤの記憶が残る日本では、富士山のことを話題にして、今度は富士山が爆発したらたいへんなことになる。
そう考えられて、記紀には富士山のことに触れられていない。
同様に、アカホヤのことも触れられていない。
その代り、アカホヤの噴火を生き残った人たちが、どのようにして日本全国に広がって行ったのかが、記されたのではないでしょうか。
お読みいただき、ありがとうございました。

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