◆第34回倭塾は、2016年11月12日 18:30〜開催です。
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20161107 ヤマタノオロチ
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昨日開催された倭塾でお話したことから、ひとつをご紹介したいと思います。
ヤマタノオロチのお話です。
ヤマタノオロチのことを、古事記は
「高志(こし)の八俣遠呂智(やまたのおろち)」と書いています。
「高志」は、一般には「越の国」の「越」のことだといわれています。
「八俣」は、「八」が古語で「たくさんの」、「俣」は分岐です。
「遠呂智」は、一般には大蛇のことであるといわれています。
八俣遠呂智の物語の場所は「島根県・奥出雲の鳥上村」と、これはちゃんと場所を特定して古事記は書いています。
「越の国」というのは、いまでいうと、福井県敦賀市から山形県庄内地方までの日本海に面した細長いエリアです。
なにしろ、福井県から石川県、能登半島を通って富山県、新潟県を越えて、さらに山形県まで至るエリアを指します。
要するに日本海に面した4県にまたがる広い地域が「越の国」です。
そこから出雲に至るには、今度は京都府、鳥取県をまたいで行かなければなりません。
出雲の神話に、お隣の鳥取県あたりの地域名が登場するくらいならわかります。
それがどうして、はるか遠方の「越の国」がここで登場しているのでしょうか。
実はこのことについて、明確にその理由を説明したものは、書かれているもの、口伝、伝承を含めて、ありません。
「高志とは越の国のことである」と頭ごなしに説明されることが多いのですが、そうであるとするならば、「何故、越=高志」なのかについて、合理的な説明が必要ではないかと思うのです。
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【倭塾】(江東区文化センター)
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越の国
20161107 船通山

そもそも古事記は「高志之八俣遠呂智」と書いています。
書かれているのは「高志」であって、「越の国」でも「高志の国」でもありません。
加えて「越の国」を「高志国」と書く用例も、他にありません。
あるのは出雲国風土記に「古志国人等、到来」の記述が見られるくらいです。
ここでいう「古志国」は、場所が特定されています。
出雲国神門郡古志町、いまでいうと出雲大社に近い島根県出雲市古志町です。
遠く北陸道全域をあらわす「越の国」とは、ずいぶんと違う場所ですし、「高志」とは「字」が違います。
ではいったい「高志」とは何かということになります。
話は、ヤマタノオロチの話です。
すこし話を先取りしますと、古事記に書かれた「八俣遠呂智」の「遠呂智」は、「此三字以音」と注釈があります。
これは「此の三字は音(こえ)を以(もち)いる」という注釈で、これは大和言葉の「おろち」に相対するにふさわしい漢字がなかったから、大和言葉の音を、ただ漢字に当てはめただけで、漢字の文字には意味がない、という注釈です。
逆にいえば、この注釈がないところ(たとえば「高志」や「八俣」など)は、漢字そのものの意味を借用しているということです。
実は古事記は、序文においても、またこのヤマタノオロチのお話の末尾のところでも、ヤマタノオロチのことを「蛇」と書いています。
つまり古事記を書いた人は、ちゃんと「蛇」という漢字を知っていたわけです。
にもかかわらず本文ではヤマタノオロチのことを意図的に「八俣遠呂智」と書いているわけです。
つまり、オロチは、蛇でなくて「遠呂智」というのです。
では、大和言葉で言う「おろち」とは何か。
その答は、ねずブロをお読みになっておいでの方は、すでにご存知だと思います。
答は「愚地(おろち)」あるいは「悪露地(おろち)」です。
これは、水はけの悪い、農耕に適さない土地を意味する大和言葉です。
ヤマタノオロチ神話の舞台となっている島根県奥出雲町の鳥上村は、中国山地の真ん中にある山間部の盆地です。
そしてこの盆地には、周囲を囲む山々から、つまり四方八方から、いくつもの川が流れ込んでいます。
盆地というのは、このような山あいに、大水のたびに土砂が流れ込んでそこが平野となったところで、そもそも水はけが悪いという特徴があります。
水はけがわるいから、そこに土砂が堆積して盆地になっているのです。
これについて、「盆地でも水はけが悪くない土地もある」というご意見をいただいたことがありますが、仰る通り、そのような盆地もあります。
ただ、調べてみると、かつては川が流れ込んでいたけれど、盆地が形成されて土地が高くなった結果、河川が流れを変えて別なルートになった土地、あるいは、川そのものが低所を流れるようになってその盆地に川が流れ込まなくなったといった土地であるものが多く、やはり一般的には、河川が土砂を流入してそこが盆地になったという場所の方が、多いようです。
鳥上村は、まさいそういう盆地にあります。
ですから大昔は、毎年、大水が出るたびに水害に襲われ、毎年田んぼや畑がダメになっていたことでしょう。
だからそこは「愚地(おろち)」です。
しかもその「愚地」には、斐伊川だけでなく、四方八方から川が流れ込んでいます。
その川の中の最大のものが、斐伊川(ひいがわ)なのですが、その斐伊川は、上流にある船通山(せんつうざん)を水源地としています。
その船通山の写真が↓です。
20161107 船通山

ごらんいただいてわかりますとおり、山頂付近の高いところは乾いた土地で木が茂りません。
そこで「高志」という感じの意味を探ってみます。
なぜかといえば、古事記には、「高志」に「以音」という注釈がないからです。
これは漢字そのものの意味を借りているということになります。
「高」という字は、もともと台地の上に建てた高い建物を象った象形文字で、そこから「たかい」という意味になり、さらに発展して「かわいた」という意味を含むようになった字です。
要するに、ただ高いというだけでなく、そこが乾いた土地や場所であることを含んだ高所を示す字です。
「志」は、訓読みすれば「こころざし」ですが、音読みは「シ」で、これはひとことでいえば目印のことです。
つまり「高志」という漢字の言葉は、「山頂付近に木が生えずに禿げ上がった、目印となるような高い山」を意味します。
上の写真と見比べていただいてどうでしょうか。
まさに「高志」ではないでしょうか。
「ヤマタノオロチ」とは、水害に弱い盆地である鳥上盆地そのもののことではないかと書かせていただきました。
いわば「鳥上盆地説」ですが、これを「高志の八俣遠呂智」と書くならば、船通山を水源地とする斐伊川による水害が目を覆うばかりの土地であったと読むことができるわけです。
ひとこと申し添えますと、だから「高志=船通山」だと決めつけようとは思いません。
その可能性がある、ということを申し上げています。
そして私には、すくなくとも「高志之八俣遠呂智」が、北陸道の「越の国」の八人の強姦魔もしくは人さらいというよりも、「高志=船通山」という解釈のほうが、しっくりときます。
そしてもうひとつ申し上げるならば、こうした読み方は、私たちの諸先輩方が、長い年月の間に「高」には「乾いた」という意味もあるということを研究し、漢和辞典にそれを記してくださったことによって、はじめてそのような理解の可能性が拓けたというものです。
あくまで「決めつけ」ではなく、合理的な説明がつくように行間を丁寧に読んでいったら、そのように読める可能性が出てきた、ということを申し上げさせていただきました。
ちなみに、「高志の八俣遠呂智」については、他にも、出雲の古志町に住んでいた8人の強姦魔説や、「オロチ=オロシャ」で、これはロシア人の強姦魔という説など、まさに様々な説が流布されています。
古事記は歴史が古い書物だけに、いろいろな人がいろいろな解釈をしているわけで、そこには宗教的解釈あり、世界の神話比較上の解釈あり、あるいは古事記をおもしろく伝えたいということからの、やや行き過ぎたと思える解釈があったりもします。
ただ、大切なことは、何千年も昔から神話として大切に伝えられてきたことは、そこに後世に生きる人々に学んでもらいたい真実、遺しておかなければならない大切な祖先からのメッセージがあるからこそ、伝えられてきたのだということなのではないかと思うのです。
その大切なメッセージを、しっかり受け止めること。
このことこそが、私たちにとって必要な「神話を学ぶ」ということなのではないかと思います。
というわけで、また次回の倭塾をお楽しみに。
お読みいただき、ありがとうございました。
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20160810 目からウロコの日本の歴史

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