
ひさびさに、夢中になって一気に読了した本があります。
読みやすくて、絵も豊富。
感動的な内容でありながら、文体は非常に冷静で客観的。
一級の資料でもあり、戦前の心が伝わってくる温かみがある。
そしてとても勉強になる。
それが今日、ご紹介する溝口郁夫先生の書かれた「絵具(えのぐ)と戦争-従軍画家たちと戦争画の軌跡-」です。(冒頭の写真)
この本は、先の大東亜戦争時に各前線で書かれた様々な名画を写真入りで紹介し、それに付帯する解説や、当時の画家たちの従軍記の抜粋を並行させながら、先の戦争の全体像まで描いた本です。
ここで紹介されている絵画は、いわゆる戦意高揚のために意図的に書かれたというものではなく、画家が自らの意思で、最前線に行き、自分の自由な視点で書きつづった絵です。
そしてこの本で紹介されている絵画のほとんどすべては、GHQによって没収されている。
なかにはバターンの行軍に関するものもあります。
あの「死の行軍」といわれ、本間軍司令官はその責任を問われて死刑の憂き目に遭っている、行軍です。
この本では、向井潤吉著「比島従軍記 南十星下」を題材に、バターン半島での戦闘状況や行軍時の状況まで、詳しく描いています。
ここにはボクも知らなかった事実が、図、写真、絵画つきで詳しく紹介されている。
この本のあとがきに、中国戦線の従軍にはじまり、フィリピンの場他^んで向井潤吉と行動をともにし、さらにインパールで困難な戦線を踏破して、戦闘を身近に体験し、兵士たちと苦労をともにした火野葦平が、GHQの尋問に答えたときの文章が載っています。
あとがきなので、ちょっと引用してみます。
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軍閥は日本国民を駆り立てるためと、侵略戦争をごまかすために、大東亜共栄圏建設というスローガンを掲げていたが、それを君はどう思っていましたか?
私はそれが軍閥のつくりだしたものかどうかは知りません。やはり馬鹿だったのでしょう。
しかし、大東亜共栄圏の建設ということは、正直に申しまして、私の胸にもひとつの灯を転じていたことは疑うことができません。
私は戦争を好みませんし、おたがい同士殺しあう戦争を、どうして人間はするのか、ほんとうに悲しいことに思います。
しかし、戦争がはじまってみると、なんとしても祖国の勝利を願わずにはいられない。
しかしやはり、これが明瞭に侵略戦争で、理不尽きわまりないものであるという自覚があれば、戦う気持ちが鈍ったにちがいありません。
しかし、この戦争は日本が窮地に追い込まれて、やむなくたちあがったものだという自覚がありましたし、アジア民族の解放、団結という理想への戦いでもあるという自覚もあって、私は勇気を出して戦いました。
私たちアジア人種が、白色人種の帝国主義の下に征服されていた歴史は明瞭であります。
その支配下から抜け出て、アジア人はアジア人の国を作り、アジア人同士、手をつながなく名はならぬと、私は信じていました。
言葉が過ぎたらお許し願いますが、アジアの諸国がすべて西洋諸国の領土、ないしは植民地となっていましたことは、私が説明するまでもないことでしょう。
私は、フィリピン、ビルマ、インパール作戦などに参りましたが、そのときいつでも私の心にはフィリピン人やビルマ人、インド人に対する親愛の情があり、フィリピンでは敵はアメリカ、ビルマでは敵はイギリス、米英の征服下からフィリピン人、ビルマ人を解放するのだという気持ちがありました。
それで大東亜共栄圏という思想は、私にとっては空念仏ではありませんでした。
それで私は、現地ではフィリピン人やビルマ人、Chineseなどと努めて仲良くし、アジア人同士のつながりをしっかりとたしかめあいたいと念願しました。
おそらく私がお人好しの馬鹿だったのでしょう。
軍閥の魂胆や野望などを看破する眼力がなく、自己陶酔におちいっていて、墓穴を掘ったのでしょう。
しかし、私は私なりに戦争に協力したことを後悔しません。
敗北したことは残念でありましたが、私の気持ちは、勝敗にかかわらず、いまも変わっておりません。
(火野葦平著「革命前夜」)
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この火野葦平氏の文書を読んで思うのは、氏は、自らの戦争体験について、それを軍閥のせい、国のせい、士官のせいなど、人の「せい」にしていない、ということです。
戦争を、自分のこととしてとらえ、自分の意思で協力し、自分の意思で戦い、自らの正義を尽くしたと述べています。
なるほど、アスチンがいうように、戦時中の国家予算は、8割以上が戦争に遣われたのかもしれません。
けれど、当時、ほとんどの日本人は、みんな、勝とう、負けまいと、全力を尽くして戦った。
単に召集令状が来たから、上から命令されたから、誰かに何かを言われたからといった被害者意識じゃありません。
祖国を愛し、アジアを愛し、争いのない平和な社会を築きたい、その一心で戦った。
そんな兵士たちの様子を写真や絵にしたものが、戦後、焚書にあい、焼かれ、捨てられてしまった。
溝口郁夫さんは、それを丁寧に発掘し、今回の出版にいたったものです。
資料としても一級の価値のある本だと思います。
おススメです。
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